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11/53

→一本:見放された



 誰だって、一度は夢見る異世界転生。


 そもそも日本人はタイムスリップ系や転生系が大好きだ。古くは古事記。スサノオという万能神様サイドの登場神物が下界で俺強いを満喫し、王家の紋章では現代知識で学習力皆無の一般人が無双し女神の子とチヤホヤされる。漫画だけでなくライトノベルやあれこれと、日本人の妄想はいつの時代も果てしない……。


 しかし、そんな誰もが憧れる異世界転生。

 それはそれとして、考えて見て欲しい。


 イゼルローン攻防戦のゼークト大将の船に乗り合わせたいだろうか?

 魔法モノの学園生活の稲妻印の眼鏡っ子が生まれる前の暗黒時代に生まれたいだろうか?

 もちろん中には、逆境を跳ねのけて物語を俺色に染めてやるぜ!という大変意欲的な、向上心あふれる人間もいるかもしれない。


 残念ながら、私は違う。


 そもそも日本の東京の社会人、できれば可能な限り面倒ごとを避け、上司に期待も失望もされない絶妙なポジションを維持しつつ賞与はしっかり頂き適度に順当に昇給していきたいだけという善良な小庶民。


 ……さて皆さんは、「王太子殿下、貴方が婚約破棄した悪役令嬢は英雄卿の名付け子です」という小説を知っているだろうか?もちろんあまり有名ではない。書籍化もされず、ノンストップ復讐を1週間で繰り広げただけの救いのない話だった。


 正直「ジョン・ウィックか?」というような元最強の男がじわじわと馬鹿息子を追い詰めていく話なのだが、作者曰く参考にしていたのはグラディエーター。つまりラストに主人公が死ぬし、ついでに「村は焼いたことがあるが国はまだなかったので焼いた」と最終的に国が更地になる。ペンペン草も残らない。過程で大量の人死には出るが、主人公が生き残るだけまだジョンの方がマシだ。


 そのどうしようもなく救いのない物語には悪役令嬢がいる。


 死した悲劇のヒロイン、ヴィクトリア・ラ・メイの死体に宿った人形姫ことカッサンドラ。エリック・ドマがルシウス・コルヴィナスを手駒にするために用意した人形で、最初は物言わぬぼんやりとした自我のない存在だったのだが、物語の中で徐々に彼女は自我が芽生えていく。もとになったのがどんな人格なのかは作中では語られなかったが、カッサンドラは自分を醜いものと見下し唾棄するルシウスに執着した。自分の顔や声、何もかもを使ってルシウスに振り向いてもらおうと躍起になるが、ルシウス・コルヴィナスにとってカッサンドラとは愛しい名付け子の身体を盗んだドブ鼠でしかない。


 カッサンドラはエリック・ドマを裏切り、王太子側に情報を流し、ルシウスが窮地に追いやられるように立ち回ろうとするのだが、エリック・ドマの元を離れる彼女の身体は腐り、肉が爛れおちる。ルシウス・コルヴィナスに愛されれば自分のこの宿った人格はヴィクトリア・ラ・メイなのではないかと、自分自身が「何者なのか」がずっとわからなかった彼女は骨だけになり、それも暴動を起こした民衆たちの足で踏みつけられて粉々になり、そして物語の舞台から退場する。


 容赦ない!!!!!

 あまりに容赦、ない!!!!!!!!!!


 そんなドアマット以下の、ただルシウスのヴィクトリアへの愛情を示すためだけの舞台装置におれはなる!!なんて無謀な覚悟を叫べる者は、処刑台でニカッと笑わなくとも海賊王の器だろう。


「…………」

「…………なんと?」

「………………」


 暗い部屋の中。目の前には怪訝そうな顔の中で、嫌悪感を隠さないルシウス・コルヴィナスと、いつのまにかこちらにやって来た黒い髪に背の高い、サリーちゃんのパパのような風貌のドマ公爵。


 私は自分のうかつさに冷や汗を流す。

 なぜ黙っていられなかったのか。

 赤い髪に白い肌。目の前に銀髪青目の偉丈夫と、話の内容を聞いて、悟ってしまった自分の頭の回転の速さが恨めしい。私が賢いばっかりに!!!!!


 胡乱な目を向けてくるサリーちゃんパパ、じゃなかった、エリック・ドマ公爵からギギギと首を動かして視線を逸らし、自分の生存ルート……まぁ、死体だが…を考える。


 ……浮かばないよ!!!!!!!!!


 約束された死の人形姫に、生存ルートなんぞ用意されていない。

 もちろんルシウス・コルヴィナスに執着しなければ原作とは違う展開になるのだろうが、それはそれとして、ドマ家から逃げると腐って死ぬ!!!!!


 そしてエリック・ドマ公爵は人形姫を使ってルシウス・コルヴィナスの感情を操りたいのだから、私が拒否しようがなんだろうが、悪の貴族は何かしらで(想像力の欠如)いい感じに(語彙の欠如)私を利用するのだろう、原作みたいに!!!!!!


 そう、原作でも、徐々に自我の芽生えはじめたカッサンドラに、ドマは「君が何者かになるためにはルシウスの愛を手に入れるしかない」というような台詞を吐き続ける。ルシウスがカッサンドラを見つめる瞳は常に冷たかったが、時折、彼女の姿のかすかな仕草にヴィクトリア・ラ・メイを想い、瞳の中に愛情が宿った。孤立無援、自分自身という存在がわからないカッサンドラにとって、そのわずかな愛情のみが縋りつく希望だった。


 そして私自身も考える。


 ルシウス・コルヴィナス……顔が、いい!!!!!!!!!!!!!!!


 銀髪青目のちょっと影のあるイケてるナイスミドルに、時折優しい瞳を向けられて……!!!!!


 落ちない自信が!!


 ない!!!!!!!!!!!!!!!


これ書きながらサリーちゃんの曲を聞いていたんですが、改めて聴いてみるととんでもねぇマジックテロだな、と思いました。強制的な幸せを浴びろ。それくらいのメンタルでいたい。

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― 新着の感想 ―
安定の誰に対しても容赦ない死に方にドマ家に作品内で作品読者の転生!らしさ全開の今、この先の行方が気になって仕方なし!笑
あ……オワタ 大丈夫どころじゃなかった…この国すでに終わっとった(;^ω^) ドマ家の方が出てきた時点でこれは……(^^;と思ったけど 召喚された人も「……およびでない?……およびでない…こりゃまた失…
ちょっとまって主人公いま爆誕した?圧が強いw
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