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大河小説「花咲かぬじいさん」

これは小説習作です。とある本を開き、ランダムに3ワード指差して、三題噺してみました。

随時更新して行きます。

【お断り】「報い、粒、家」の三題噺です。


(以下、本文)


むかしむかし、ある所に、とてつもなく悪いおじいさんが、おりました。


そんな、おじいさんも、最近では膝が痛いわ記憶力は衰えるわで、「後世/こうせいの報い」が気になって気になって、しょうがない。


ここで解説しておきますと「人は死んだら別の生命体に生まれ変わる」と言うお話がありまして、これを「輪廻転生/りんねてんしょう」と申します。

今の人生ステージ(今生/こんじょう)でしでかした事は、次のステージ(来世/らいせ)でガッツリやり返される。十日で一割の利息を乗っけた上で「耳をそろえて借金、返せ」と迫られる。

確かに穏やかな話じゃありませんな。


そこで、おじいさん、遅まきながら「人生の帳尻合わせ」を考えた。

まずは死んだら真っ先にお世話になるだろう、自分の旦那寺に乗り込んで行きました。


この旦那寺、いろんな大人の事情があって村人から見離され、誠に苦しい台所事情に陥っておりました。

そこで、とてつもなく悪いおじいさんは、やはり、とてつもなく悪い旧友たちに声をかけ、「みんなで、あのお寺を何とかしてやろうじゃないか。ひと肌脱いでやろうじゃないか」と説いて回りました。


すると思いもかけない勢いで檀家組織が復活し、お寺はホクホク。おじいさんの株も一気に上がりました。

実はこのお寺、村の人たちにとっては、とてもとても大切なお寺で、「何とかしなきゃならん」とは誰もが思っていた。そう言う下地はあったのです。


ところが、うまくは行かないもので、折角再建した檀家組織も、その後10年を過ぎたあたりから、古い顔ぶれが一人また一人と世を去って行く。それに続くべき若い世代は現れない。

おじいさんの村は、すでに若者を育てる力を失い、若者たちは村の外で自分たちの子どもを持ち、そして育てる。そんなドカ貧状態に陥っていたのです。

これはもう、おじいさんの力では、どうしようもありません。


意気消沈したおじいさんは、さして面白くもないヒマ潰しの日々を送っておりましたが、そんな折も折、何だか面白そうな、いや、とても大変な事が起きました。

濡れ手でアワのボロ儲けで、ひと財産作った若い長者が、事もあろうに「この村の水源地に屋敷を作るから立ち退け」と言う。「生活用水・農業用水ならタダで、くれてやる」と言われても、村人全てにとって、とうてい承服できる話ではありません。水源地は龍神さまの鎮座まします場所、つまり水源地に湧く水は聖水であり、村人たちの聖地だったからです。


おじいさんは喜び勇んで、いやいや、そうじゃなくて強い衆望に抗し切れず、やむにやまれぬ気持ちで起ち上がり、村人の先頭を切ってお奉行さまに、これがいかに不当な事かと訴え出ました。

お奉行は右の耳で「うむうむ」と傾聴した事を左の耳からダダ流ししてしまわれました。水源地に長者の屋敷が建とうが建つまいが、お奉行さまには損も得もないからです。

もちろん長者からは「日持ちが極端にいい、何にでも使える万能のお菓子」をプレゼントされてはいましたが、お奉行さまにしてみれば「やる」と言うから、もらってやったまでの話で、それで便宜がどうとかの義理なんてあるもんかと思っておりました。


そうと見て取ったおじいさんは「シメシメ」と、じゃなくて義憤に燃えて再度起ち、まるで頭の黒いゴキブリのように、じゃなく黒い頭巾の鞍馬天狗になった「つもりで」同志を求めて東奔西走しました。

時の勢いと言うのは恐ろしいもので、お奉行さまが「烏合の衆」と舐め切っていた村人たちの怒りの声・魂の叫びの、何と耳障りなことか。

「これは先手を打って火消ししておかないとヤバい事になる」と気付いたお奉行さまは、長者をとっとと追放してしまいました。この土地に生え、縁もしがらみも人脈も持っている村人たちを敵に回すより、よそ者の長者一人を放り出す方が、はるかに手っ取り早かったからです。

相手がお奉行さまでは、長者も「金返せ」とは言えませんでしたし。


かくておじいさんは村のヒーローになりました。いや、悪いおじいさんだから、ダークヒーローかな。

とは言ったものの、闘争の成果も勝利の味も、みんな三日たったら忘れます。銅像ひとつ建ててもらえません。

さすがのおじいさんも、村人に対して恩着せがましくふるまう事の愚かさくらいは心得ていましたから、また、以前の退屈な生活に逆もどりです。


そんな折、誠に不思議なご縁をちょうだいして、おじいさんは一人のお坊さんとジッコンの仲になりました。

このお坊さん、行き場を失くした人々に手を差し伸べるのが趣味、じゃなくて、本気でそうしている人でした。

おじいさんにもその「本気」は伝わって来ました。


おじいさん、生まれて初めて「本気」出しました。私財を投げ打って、このお坊さんと人生を共にする決意をしたのです。三日しか持たない決意でしたが。


「やはり俺にはできないことだ」と言うありきたりの言い訳をして、おじいさんは撤退しました。

ここで踏ん張れないから、この人は「とてつもなく悪い」属性から抜けられないんですよねえ。


ここら辺で、おじいさんは自分の生存戦略を見直す事にしました。

「おれには『いいおじいさん』のロールモデルが要るな」と。


そのロールモデルとやらを探すのに何の苦労もありませんでした。とてつもなく悪いおじいさんの隣りの家に、誰もが認める「いいおじいさん」が住んでいたからです。

「とてつもなく悪いおじいさん」は、低姿勢で「いいおじいさん」の家の戸を叩きました、菓子折り一つ持参せず。


さて、下げたくない頭を無理に下げて教えを乞うたら、「いいおじいさん」は「自分は何も特別な事はしていないよ」と逃げる。

あれこれ詮索してみましたが、「特別な事」はホントにしてないみたいです。人から右と言われれば右を向き、左と言われれば左を向くが、やりたくない事からはスルリと逃げる。つまり、どこにでもいる俗物、じゃなくて「話の分かる人」に過ぎないみたいです。

それでも、これまでマイペースに飄々と生きて来れたのは、どうも「憎めなくて、かわい気のある、おじいちゃんキャラ」と言う設定に理由があるらしい。


「とてつもなく悪いおじいさん」は「あ~あ、やっぱり人は見た目が九割九部九厘なのか」と、ちょっとガッカリしてしまいました。さすがのダークヒーローも、次の打つ手を思い付かなかったからです。


その夜、「いいおじいさん」の家は不審火で焼け落ちました。「いいおじいさん」は火傷こそしなかったものの、火事が隣家に延焼してしまったのが居たたまれず、遠方の息子に引き取られて村を去りました。

「とてつもなく悪いおじいさん」は思いました。


「なんだ、人徳者の評判の報酬が一文無しか。だったら、定期的にお寺に寄進するくらいの小金は持ってるオレの方が、はるかに世のため人のためになってるじゃないか。」


この人、マジで一度「後世/こうせいの報い」を受けた方がいいと思います。


ある爽やかな秋の日、「とてつもなく悪いおじいさん」は縁側に横になって、もらい物のブドウを食べておりました。

寝転がった頭の横に、ブドウの房が横たわっている。

ブドウの粒は、よくよく見てみりゃ決して粒ぞろいじゃない。デンと構えた大きな粒もあれば、その隣で押し退けてられている、ひしゃげた粒もある。

ここで、おじいさん、ふと考えた。


「いいおじいさんと言い、悪いおじいさんと言っても、ブドウの粒の背比べみたいなもんじゃないのか。結局の所、オレはこの村に何かを与えたか? 逆に、何かを奪ったか? どっちでもない、中途ハンパな『良くも悪くもない、普通のおじいちゃん』に過ぎないんじゃないのか。」


翌日から、「とてつもなく悪いおじいさん」はドッと寝込んでしまいました。

「とてつもなく悪いおじいさん」から「とてつもなく悪い」を取ったら、ただの「おじいさん」です。それは死ぬよりツラい事だったのです。


年を越した春の日の事です。

「ただのおじいさん」の家の前庭には、枯れた桜の木がポツンと立っておりました。

なんでも、おじいさんのご先祖さまが100年ほど前、この地に流れて来た際、すでに、この桜の木は自生していたとかで、以来、ずっと大切にしては来たのですが、数年前に枯れてしまい、今もそのままにしてあります。

まあ、木の寿命だったんでしょうが、この木の事だけは、おじいさんの中で整理がついていなかったのです。

しみじみと枯れ木を眺めつつ、おじいさんはポツリと弱音を吐きました。


「あの木に花が咲いた時、オレはきっと死ぬだろう。」


村人も、これには呆れ返りました。

数少ない「おじいさんサイド」の人たちも黙ってしまいました。

だって、要は「絶対に死ぬつもりはない」と言うことじゃありませんか。

「憎まれっ子、世にはばかる」健在なり。


ところがどっこい、翌朝、枯れたはずの桜が満開状態で、おじいさんは布団の中で息をしておりませんでした。


この怪事、尾ヒレを付けて長く語り伝えられました。

ただし、比較的、正確に語られたのはファースト・シーズンだけ。

その後、続編が制作されるにされて、ニューバージョンの「花咲かじいさん」が一人歩きし始めました。


たとえば、霧の向こうの古城に幽閉された「いいおばあさん」を救う旅に出た「いいおじいさん」の英雄冒険譚。


「いいおじいさん」がご幼少のみぎりに戯れ、その後は納屋に放り込まれていた、おもちゃたちの冒険の話。


さらには犬・猿・雉を従えた「いいおじいさん」の戦隊ヒーローもの。


このショート・ストーリーの定番が、今に伝わる「ウラの畑でポチが泣く」の形に、ほぼ絞られたのは、江戸時代初期の事だったそうです。


めでたし、めでたし。

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