9.祖母からの迷惑電話
「というわけで、先輩のお隣さんになったわけです。めでたしめでたし」
証明終了――。
そう言わんばかりに話を切り上げ、再び白飯を頬張り始める志賀。
……って、ちょっと待て。
「なにが『というわけ』なんだ。まだなんの説明もしてないだろ」
「いえいえ。場面も切り替わったわけですし、いい感じの回想シーンでも入ったと思ってもらえれば」
「お前にはなにが見えているんだ……」
結局のところ、真面目に話す気はゼロだったらしい。
「ぱくぱく……あ、最後のから揚げ、カレー味ですよカレー! お総菜ってこんなのも売ってるんですねぇ、結構美味しかったですっ」
「……志賀、なにか俺に言うべきことがあるんじゃないか?」
「はい? あ、ごちそうさまでした」
「違う。というかなに普通に完食してんだ。飯まで綺麗にかっさらいやがって」
「大丈夫ですっ。先輩の分もちゃーんと残してますから」
炊飯器を開いて中を見せてくる志賀。
ジャーには一口分の白飯がこぢんまりと残されていた。
「OK、お前の中で、俺の胃袋がスズメ並みに思われていることは理解した」
「スズメってお米食べますっけ?」
「知らん。この際だから飯の件はいったん置いておく。話が一向に進められないからな」
「そんなにあたしがお隣さんになった理由が知りたいんですか? 別になんでもいいじゃないですか。たまたま一人暮らしを始めて、それでたまたま先輩と同じアパート、隣の部屋になったってことで」
そんな偶然があるものか。絶対になにか思惑があるはず……。
などと勘繰っていると、スマホがバイブレーション。
見ると、父方の祖母からの電話だった。珍しいな、あのばあさんが電話なんて。
『もしもし、空太かい? 一人暮らしは上手くいっとるかね』
「ああ……昨日までは多少なりとも自信があったんだけどな。たった今、とんでもない障害と対峙しているところだ」
『相変わらず小難しい言葉ばっか使うねあんたは。誰に似たんだか』
「安否確認だけなら後日にしてくれないか。今はとにかく取り込み中で――」
『そうそう、言い忘れとったんやけどね。志賀さん家のお孫さんがまた、あんたと同じ学校に通うってたい』
「は? 志賀……?」
一瞬なんのことか分からなかった。
が、その独特過ぎる苗字を聞いた瞬間、ある人物の姿が頭をよぎった。
……そういえば昔、ばあさんの家の近所にイギリス人のおばあさんが住んでたな。
確かその人の苗字が、志賀だった気が……。
『男ん子の方はあんたと同い年で、バスケばやっとらしたど? そっちは学校の寮って話ばってん、一つ下の女ん子の方は一人暮らししたかって家ば出て。心配しとらしたけど、じゃあ空太と同じアパートやったらどうかって私が言っておいてね。それで進学の許可ば出さしたとよ』
「待ってくれ。なんで俺と同じアパートならOKってことになるんだ」
『あんた、志賀さん家のお孫さんと仲よかとやろ? それなら安心って、志賀さんも納得さしてね』
「いや、仲いいというか、俺が知ってるのは兄貴の方で――」
『なんかあったら空太ば頼れって言ってあるけん。ちゃんと面倒見てやってね。そいじゃね』
ぶつり、と通話を切られる。
相変わらず、よぼよぼな喋りのくせしてなんたる強引さか。
「先輩? 今の、誰からの電話だったんですか?」
「……ただの迷惑電話だ。主にお前絡みだけどな」
嫌味たっぷりに言うと、志賀は「はい?」と首を傾げていた。
俺は再び溜め息をついた。肺の中が空っぽになるくらいの長さのやつを。
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