52.灯台下暗し
「あ、先輩もよかったらどうぞ。そのためのMサイズなので」
店内のテーブルに着くと、愛羽がポテトを食べるよう勧めてくる。実にあっけらかんとした表情で、停学で自宅謹慎中の身であることなどまったく感じさせない。
「俺はいい。喉が渇くだけだ」
「ドリンクくらい買えばよかったじゃないですか。せっかくのワックなんですから」
「俺はそもそも用なんかなかったんだ。お前に無理やり連れられてきただけで」
「えー、用もないのにお店の前をうろうろしてたんですかぁ? 怪しい」
頬杖をつきながら、ジトっとした目を向けてくる愛羽。
確かに、用もないのには語弊があったかもしれない。
「たまたま通りかかったから、お前がまた性懲りもなく働いているんじゃないかと思って少し覗こうとしただけだ。万一にもありえないだろうが、とも思っていたが」
「それはさすがにないですよぉ。あたしが停学になったの、ここでバイトしてたのが原因みたいものですし」
「ああ、そうだな。その主たる原因の店に、停学中に客として来ることも普通はありえないと思うがな」
「バイトはダメですけど、出禁になったとかじゃないですから」
「停学中に、というのはどう言い訳するんだ。もし学校にバレたら」
「バレないから大丈夫です。そのための変装ですし」
わざとらしくキャップを深く被り込んで、不敵な笑みを見せてくる。
さながら現場に張り込む探偵か刑事のような風情だ。どちらかといえば追われる立場のくせに。
「まさか先生たちも、あたしがこんなところで呑気にポテト食べてるなんて思わないはずです。ほら、なんかそんなことわざあるじゃないですか。大正デーモン暮らし、みたいな」
「……まさかとは思うが、大正デモクラシーって言いたいのか?」
「あれ? そう聞くとなんか違う気がしますね」
まったく違うのだから当然だ。たぶん愛羽が本当に言いたかったのは灯台下暗しの方だろうから。
「俺が学校に報告する、とは考えないのか」
「そんなことしても、先輩にはなんのメリットもないですし。むしろデブ研が危うくなると思います」
「時々、お前のことが分からなくなる。能天気で考えなしなのかと思えば、そうやってやけに頭が回ることもある」
「考えなしって、ひどいです。あたしはいつだってちゃんと考えてるんですよ、主に先輩とのこと」
「ほざけ。俺とのことなんて、なにをそんなに考えることが」
「――先輩の方こそ、あたしのなにが分かってるって言うんですか?」
一瞬、ほんのわずかだったが。
愛羽の声が冷ややかな色を帯びた気がして、ハッとさせられる。
が、改めて見た彼女の表情は、いつも通り朗らかなもの。
「先輩、時々分からなくなるって言いましたけど、本当はずっと分かってないんですよね。あたしのこと」
「……つまらない揚げ足を取るな。単なる言葉の綾だ」
「つまらなくなんかないですよ。あたしは心の底から、先輩に分かってほしいって思ってますから。だから大切なことなんです。先輩がどこまであたしのことを分かってくれたのか」
「どこまで?」
「そうです。あたしの方は分かってるつもりですから。先輩がどんな人なのか――でも、先輩の方はそうじゃない。ですよね?」




