49.彼女が部活を休むわけ③
こいつらの祖母というと、あのイギリス人のばあさんか。
で、仲よしであるうちのばあさんも協力して、俺が住むアパートの隣部屋なら安心だろうと紹介したって話だったか。
「分からないな。なんでそこまで孫娘の一人暮らしを後押ししたのか」
「一つ、うちの祖母は孫娘に甘い。一つ、祖母の好きな言葉が『可愛いには旅をさせよ』」
それは、随分と日本に明るいイギリス人だことで。
「祖母やアッキーのおばあさんからの後押し、加えて妹自身もバイトをして生活費の足しにするなんて言い出してね。かなりゴリ押し気味ではあったものの承諾されたわけだけど……」
「バイトがダメになった以上、一人暮らし自体も見直されそうってことか」
「学校からの許可がないことを偽って働いていたことも、中々に心象が悪かったみたいでさ。楽しそうだっただけに残念だけど、身から出た錆だし、仕方がないね」
まるで他人事のように話す志賀。
愛羽と話している時も思ったが、それほど仲のいい兄妹でもないのだろう。飄々としているところなどよく似た二人だが、意外と険悪なのかもしれないとさえ感じている。
「今更、一人暮らしをやめさせたところでどうなるものでもない気はするが」
「うん? らしくない言葉だね。アッキーなら自業自得なんて言いそうなものなのに」
「そんなのはあえて言うまでもないことだ。仮に言うとしても、本人に直接言う」
「それもそうだね。でも、その機会はちょっと先になるかもしれない」
含みある言い方だった。
そういえば、少なくとも一週間は、なんて言っていたが。
「その口ぶりだと、部活だけ一週間禁止……なんて生易しいものじゃなさそうだな」
「ご明察。一週間の自宅謹慎」
その期間であれば、自宅謹慎ではなく停学扱いだろう。
それでもわざわざ回りくどく言ったのは、『自宅』の部分を強調したかったからだろうか――愛羽の場合に限るなら、『実家謹慎』とでも言うべきか。
「入学して一週間で停学か。七山高校始まって以来のことなんじゃないか」
「アッキーでもその手のジョークを口にするんだね。停学は分からないけど、過去に三日で退学になった生徒がいたなんて話は聞いたことがあるよ」
なにをやらかせばそんなことになるのかは分からないが、上には上がいるものだとつくづく思う。
「愛羽が一人暮らしにこだわる理由に、心当たりはないのか?」
俺からの問いかけに、志賀は一瞬驚いたような顔を見せたのち、小さく噴き出して笑った。
「なにがおかしい。そこまで突拍子のないことを訊いたわけでもないだろ」
「いや、そうじゃないんだ。楽しそうじゃなく、本当に楽しかっただろうなって、確信に変わっただけで」
「どういう意味だ」
「だってそうだろう? アッキーは今、名前で呼んだじゃないか。あの子のこと」
「……別に。お前らがどっちも志賀だからな。区別をつけるためだ」
そっぽを向きながら答える。
上手く誤魔化せたつもりでいたが、志賀はしばらく笑いを堪えるように腹を抱えていて、俺はなにかとんでもなく大きな墓穴を堀ったような気分を味わされた。




