46.月曜日の異変
初めて異変に気がついたのは週明け、月曜日の朝だった。
これまで通りであれば例の合鍵を使って俺の部屋に侵入し、勝手に朝ご飯を作るなり俺を起こすなりする愛羽が、その日は朝から姿を見せなかった。
……いや、本来であれば異変でもなんでもなく、それこそが正常であるべきなのだが。
俺からうつされた風邪が今頃になって発症して寝込んでいるのではなんて思ったが、隣の部屋を訪ねてみてもまったく無反応であり、それ以上はどうしようもなかったため一人で学校へ向かった。
念のため、さりげなく確認しにいった愛羽の下駄箱にはローファーが入っており、どうやら先に登校していたらしい。
「……なんなんだ一体」
こっちの承諾もなく毎日のように押しかけてくるかと思えば、今度はなんの連絡もなしに一人で登校なんて。少しでも心配した自分がバカらしい。
そもそも俺が気にする必要などないのだ。特に仲がいいわけでもない後輩の女子と一緒に登校とか、そっちの方が普通ではない。それ以前に部屋まで勝手に入られて起こされたり、朝ご飯を共にしたりとかだって――。
どうしてか苛立ちが募る。おかしな話だ。これこそが平常であり、本来望んでいたはずだったのに。
愛羽が校内のどこかにいることは分かっていたが、今から探しに行こうとまでは思わなかった。普段より学校に着くのが遅くなったせいでホームルームまで余裕がない。じゃあ休み時間ならいいのかというと、それも厳しい。一年の教室まで行って探すのは心理的ハードルが高い。これ以上、大多数の人間に愛羽との関係性を誤解される種をまきたくはない。
それに、放課後になればどうせ部活で会うのだから――という俺の言い訳がましい思い込みが打ち砕かれるのに、それほど長い時間はかからなかった。
「アッキーにとっては、嬉しかったり悲しかったりになるのかな。今回の一件については」
ホームルーム後、担任が教室を出ていったあと。
志賀恋斗が飄々と話しかけてきたが、一件とはてっきり俺が風邪で休んだことかと思い、
「どこに嬉しい要素がある? 悲しいとも少し違う気がするが」
「おや、そうかい。むしろ嬉しい寄りかと思っていたね。待望の新入部員とはいえ、アッキーはだいぶ鬱陶しがっていたみたいだし」
「新入部員? なんの話だ」
「当然、僕の妹の話だよ――もしかして、まだ知らないのかい?」
眉をひそめる。怪訝な面持ちになっている自覚はあった。
志賀も事情を察したらしく、「なるほどね」と不敵に笑う。
「アッキーにはまだ伝えていなかったのか。これはどうも、先走ったことをしてしまったのかもしれない」
「一体なにがあったって言うんだ。お前の妹とは、今日はまだ会っていない」
「きっとあの子なりに思うところがあったんじゃないかな。特にアッキーには、余計な迷惑をかけないようにって」
「よく分からないが、今更過ぎる。すでにどれだけの迷惑をかけられたことか」
「まあ、そうだろうね。僕がもったいぶるようなことじゃないか――端的に言うとね、アッキー。あの子はしばらく部活に出られない。少なくとも、今週は間違いなく」
眉間のしわが確実に深まる。
ただ部活に出ないだけなら特段驚くことでもない。デブ研の活動は基本的に自由参加だ。文化祭では文集を作る予定だが、それまでは無理に出る必要もない緩い部活である。
しかし――出られないと言われれば、少なからず疑問が生じる。
俺が『なぜ』と問いただすよりも早く、志賀が言う。
「それだけじゃない。このままだと、やめさせられるかもしれないんだ――あの子の、一人暮らしの方はね」
1万PVありがとうございます~
ストーリー的にもようやく一つの節目が近づいてきたなと思うので、
これからも更新がんばります!




