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ウザいけどカワイイ後輩と四六時中ダベる日々。  作者: かるたっくす
2年・春――後輩、ときどき押しかけ新妻的な日々
4/57

4.ウザ絡みのワケ

※10/1 誤字脱字の修正を行いました。

ご報告いただき感謝です!



 まもなく、冴姫先輩は「予備校に行くから」とかえってしまった。本当に顔見せだけのつもりだったらしい。


 志賀は入部届を書いてから帰るとのことで、必然的に俺も居残ることになった。

 元部長曰く「入部届の受理も部長の仕事よ」とのことで……別に明日でもいいだろうに。


「いいじゃないですか。こんなに可愛い後輩と部室に二人きりなんて、みんなに言ったら羨ましがられますよぉ」


 向かいの席でニヤニヤと笑う志賀。

 さっきから入部届の記入がほとんど進んでいない。大して書くところもないはずだが。


「自分で可愛いとか、よくもまあそんなに堂々と言えるもんだな。ていうか早く書け」

「自慢じゃないですけどあたし、結構モテるんですよ? 告白なんかも小学生の頃から数知れずな感じで」

「どう聞いても自慢だ。いいからさっさと書かないか」

「もぉ、そんなに嫌味っぽく言わなくてもいいじゃないですか。あたしのおかげで廃部にならずに済むわけですし。さっきの元部長さんみたいに歓迎すべきだと思うんですけど」


 それは一理あるが、認めたくないものだな。ウザすぎる後輩の、ウザさゆえの厚かましさというものを。


 ――俺がこのデブ研を気に入っているのは、どこよりも静かに放課後を過ごせるからだ。

 図書室は利用率が高いせいで意外と賑やかだし、アパートの自室は近くにある踏切の音が煩わしい。


 その辺りに比べれば、この部室はうってつけだった。

 先輩たちはやや風変わりだが基本的には物静かだったし、冷暖房も完備されているからオールウェイズ居心地がいい。

 だからこの部室を失うのは痛いし、避けたい事態ではあった。

 あったのだが……、


「その代償がこれか。まるで悪魔との契約だな」

「え、小悪魔的可愛さ?」

「どんな聞き間違えだ。俺のぼやきを気にせず早く書け」

「じゃあなんて言ったのかだけ教えてくださいよぉ」

「……世界が平和でありますように?」

「壮大だった! ていうかぶっちゃけ、またあたしのことウザい後輩だなぁとか思ってましたよね」

「そんなことは最初からずっと思っている」

「わっ、すっごいストレート。さすがのあたしも、あんまり言われると悲しくなるんですけどね……」


 目元に手を当てて涙を拭うふりをする志賀。

 ウザい。こういうところがいちいちあざとくてウザいんだが……無自覚なのかわざとなのか。


「今更感あるが、どうして会ったばかりの俺にこんなウザ絡みしてくるんだ」

「わっ、ウザ絡みってまた酷い。こんなに懐いてる健気な後輩なのに」

「単刀直入に訊く。なにか俺に恨みでもあるのか?」

「懐いてるのに恨みって……あ、でもそれはちょっと、あるかもですねぇ」


 ――なんだって?


「俺がどんな恨みを買ったって言うんだ」

「うーん、簡単に教えちゃったら面白くないじゃないですか」

「仮に面白くしてなんの意味がある」

「意味はありますよ」

「どんな?」

「あたしが楽しくなります」


 なんだそれ……。

 呆れる俺をよそに、志賀は頬杖をつきながら喜々とした目で見つめてくる。


「先輩の反応っていうか、ヤダヤダって感じなのを見てるのが」

「……普通は嫌がられる方が面白くないと思うんだが」

「そんなことないですよ。よく言うじゃないですか、嫌よ嫌よも好きのうちーって」


 八重歯を見せてにーっと笑う志賀。

 一見すると可愛さ満点の人懐っこい笑顔だ、余計なウザささえ付随していなければ。

 ……しかしこの笑顔、やっぱりどこかで見た覚えがある。

 この既視感は、彼女の言う恨みとやらに関係しているのだろうか。


「面白くなくてもいいから教えてくれ。俺は一体どんな恨みを買ってるって言うんだ」

「そですね、じゃあ入部動機の欄に書いときます、正直それしか書くことなさそうなんで」


 二の段のかけ算でも諳んじるようによどみなく言うと、志賀はそれまで滞っていたペンをさらりと走らせて入部届を書き上げていく。

 そうして提出された用紙の最下部、入部動機の欄には丸っこい文字の群れが一行分並んでいた。


『思い出してくれるまで、帰れま10(テン)♡』


 ――グシャリと、入部届を握り潰した。


「わっ、脅威の握力99っ」

「馬鹿馬鹿しい。帰る」

「ちょ、ちょっと。女の子を置いてけぼりはダメですよぉ」


 ……こいつ、やっぱり俺をおちょくることしか考えてないだろ。まったく。



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