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ウザいけどカワイイ後輩と四六時中ダベる日々。  作者: かるたっくす
2年・春――後輩、ときどき押しかけ新妻的な日々
30/57

30.雨夜のときめき



「ふふっ、こんなのじゃ拭き切れないですね。バスタオルが必要かも」


 不良チックだった二人組がいなくなったあと。

 志賀はスカートのポケットから取り出したハンカチで、俺の頬に伝う雫を拭っていた。

 普段通りの、小生意気そうな瞳でこちらを見上げながら。


「……なにやってんだよ、お前」

「先輩の顔を拭いてあげてるんです。見ての通り」

「そういう意味じゃない。なんでこんな時間まで待ってたんだって話だ。二時間以上経ってるんだぞ。すっぽかされたって気づくだろ、普通」


 思わず語気が強まる。

 が、志賀はまったく怯む様子を見せず、微笑みも崩さなかった。


「だって、すっぽかされてませんから。先輩はこうして来てくれたわけですし」

「そんなの、結果論だ」

「そうですね。でも、素敵な結果論です」


 まるでトートロジーのようなやり取りで、頬に優しく当てられるハンカチの感触も相まってどこかむず痒かった。

 ……あと今更だが、駅前の往来でこういうのは正直恥ずかしい。通り過ぎる人たちからの視線をひしひしと感じる。


「先輩こそ、なんでこんなにずぶ濡れなんです? あたしのおかげで、今朝はちゃんと傘を持っていってたじゃないですか」

「ああ、お前のおかげだな。夕方は晴れてて使わなかったからそのまま忘れてきたんだ」

「あははっ、ほんとにあたしにおかげですね。あたしが余計なこと言わない方がよかった、みたいな」

「いや……今のは愚痴みたいなもんだ。本当は、志賀が悪いなんて思っていない」

「あっ、そういえばそれ!」


 突然、志賀は俺の口元を指差す。


「さっきは、志賀じゃなかったですよね? 愛羽(・・)って、呼んでくれましたよね?」

「あれは、お前の演技に合わせようとしただけだ。彼氏を待ってるって体で追い払おうとしていたみたいだったから」

「なるほど。先輩、意外とそういう柔軟性はあるんですね」

「なんだその感想は……まあ、お前はいつも通り『先輩』なんて呼んできたから、俺の演技も徒労に終わるんじゃないかと冷や冷やしたが」

「それは、ごめんなさい。実はあたし、びっくりしちゃって……ちょっとだけ、ときめいたというか」


 珍しく志賀が、はにかむような笑みをこぼす。

 ときめいた――そんな言葉を向けられた経験に乏しい俺は、なんと言い返せば正解なのか分からず、志賀から視線を逸らすことで精いっぱいだった。

 そのまま見つめていると、俺まで変な気に当てられそうだったから。


「……そういう顔の方が、いいと思うけどな」


 ただ、そんな呟きだけは、自然と口からこぼれていた。


「はい?」

「あ、いや……人をからかってばかりの生意気な感じよりは、今の照れる感じの方が女の子らしくってマシって話だ。あくまで一般論だけどな」

「……先輩、そういうの多いですよね。結果論とか、一般論とか」

「別に意識したことはない」

「ふふっ、先輩らしいですね。褒めていただけたのは嬉しいんですけど、そう簡単に照れたりしませんから。むしろあたしが先輩を照れさせてみせますっ」


 八重歯を覗かせて笑う志賀。なんとも儚い女の子らしさだった。

 まあ、俺もこっちの方が気楽ではあるかもしれないが。


「バカなこと言ってないで、さっさと帰るぞ。もうこんな時間に買いものもなにもないだろ」

「あ、それなんですけど、ほんとは買いものじゃなくてもよかったんです。あたし、ほかに先輩と一緒に行きたいとこがあって――」

「市立図書館だろ。今日はもう閉館時間だ」


 俺が先回りして答えると、志賀は少なからず目を丸くさせた。


「なんで分かったんですか? あたしが先輩と行きたかった場所」

「さあな、ただの勘だ――くしゅっ」


 やばい、さすがに寒くなってきたな。

 雨はまだやんでいない。それほど強いわけでもないが、傘なしで帰るにはまだ厳しい振り具合だ。


「可愛いくしゃみですね。先輩にしては」


 俺が二の腕の辺りをさすっていると、志賀は鞄の中から折り畳み傘を広げていた。

 全体的にピンク色なのがいかにも女の子らしい。


「狭いですけど、これで一緒に帰りましょう。相合傘デートも乙なものです」

「ただ帰るだけのなにがデートだよ……」


 渋々ながら傘を受け取り、志賀と並んで一緒にロータリーをあとにする。

 折り畳み傘が雨粒から守ってくれる面積はほぼ一人分だ。なるべく志賀が濡れないよう傾けてやる。


「先輩の方、濡れてないですか?」

「そもそもずぶ濡れなんだ。多少は我慢でき――くしゅっ」

「もう、風邪引いちゃいますよ? ああでも、そしたらあたしが看病してあげればいいですよね。新婚さんらしく」

「縁起でもないこと言うな……」

「じゃあそうならないように、温かくしなくちゃですよね。こんな風に」


 傘の中で、肩を預けてくるように体を寄せてくる志賀。

 歩きにくいからやめてくれ――なんて言おうかとも思ったが。

 まあ実際、この方が雨には濡れにくいだろう。

 それに、肩越しに感じられる志賀の体温は本当に温かくて……ほんの少しだけ、心地よくもあった。



明日は一日外出する用事があるため、更新できるか微妙です。。。

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