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ウザいけどカワイイ後輩と四六時中ダベる日々。  作者: かるたっくす
2年・春――後輩、ときどき押しかけ新妻的な日々
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3.時に沈黙は肯定とは異議



「珍しいわね。秋月君が女の子を連れ込んでいるなんて」


 開けっ放しにされていたドアをあえてノックしていたのは、見慣れた三年生の女子生徒だった。

 相変わらず長く艶のある黒髪、すらりとした背丈。

 加えてどこか余裕を感じさせる微笑みには、同じ高校生とは思えない優雅な気品を漂わせている。

 ……という当たり障りのない外見描写はともかくとして、なにかとんでもない誤解を受けているような。


「部長になった途端のスキャンダル。やはり権力を得ると人って変わるものなのかしら」

「汚職にまみれた政治家ですか俺は……」


 そもそもデブ研の部長ごときになんの権力があると言うのか。

 呆れる俺に対し、志賀は『どちら様?』という感じで首を傾げていた。


「あら、自己紹介が遅れてしまったわね。私は榊原さかきばら冴姫さき。このデジタル文芸研究部の部長だった女よ」


 女よって。なぜそんな含みある言い方を。

 これにはさすがの志賀も面食らっていたが、すぐに人を食ったような小生意気な笑みを取り戻し、


「なるほど。つまり三年生で、今となっては部外者の方なんですね」


 こちらもなぜか牽制するような言い回しに聞こえるのは気のせいだろうか。

 ちなみに冴姫先輩は部長ではなくなったもののデブ研に籍はあるままなので、まったく部外者ではないわけだが。


「そういうあなたは新入生みたいね。まだどこの部にも所属していなそうな」

「はい、志賀愛羽といいます。秋月先輩からは愛羽ちゃんって親密度120%な感じで呼ばれてます」


 意外にも礼儀正しい、かと思いきや平然と大嘘をついていやがる。

 しかし冴姫先輩は訝しむこともなく「へえ」と目を細め、


「秋月君も隅に置けないわね。ちゃん付けで呼ぶほど仲のいい女の子を保有していただなんて」


 この時の俺の否定はゴムハンマーで叩かれた膝蓋腱しつがいけんの反射よりも早かった。


「保有してないですし、ちゃん付けとかこいつの嘘ですから。騙されないでくださいよ」

「ふふっ、もちろん理解しているわ。ちゃん付けは二人きりの時だけということでしょう?」

「一ミクロンも理解していない……ていうか先輩、今日から予備校じゃなかったんですか」

「部室に顔を見せるくらいの余裕はあるわ。残念だったわね、新部長さん?」


 なにが残念なのか。

 まさか本当に俺が部室に女子を連れ込んだと思っているのか。誤解も甚だしい。


「志賀、お前のせいでスキャンダル扱いされてるんだ。なんでここにいるのか、志賀の口から説明と弁解を頼む」

「えっ、そんな、あたしの口からなんて……いいんですか、先輩?」

「なぜためらいがちに顔を赤らめる。なにを暴露する気なんだお前は」

「もちろん、先輩とのあることないことを色々と」

「ないことをのたまう必要はないんだが。普通に入部希望で来たと言ってくれ」


 ほぼほぼ初対面のくせになんという馴れ馴れしさ。

 まあ、かく言う俺も律儀に付き合ってしまっているわけだが。いっそ突き放してしまえばいいものを。

 そうできないのはなぜなのか……なにか引っかかるんだよな。志賀を相手にしていると。


「そう、入部希望者だったのね。それはそれは歓迎すべきことじゃない、秋月君?」

「まあ、それはそうなんですけど……でも動機がよく分からないというか、文芸にも興味なさそうですし」

「ちょっと先輩、なに言ってるんですかぁ」


 甘ったるい声と憎たらしい笑顔が割って入ってくる。


「あたしの苗字、志賀なんですよ? こんなにうってつけの苗字、いないじゃないですかぁ」

「いや、お前さっき自分の苗字は文豪っぽくて嫌いだとか散々――むぐっ」


 口元が志賀の手のひらでがっちり押さえつけられる。

 そのせいで不必要に密着してしまい、振り払おうにも上手く体が動かせなかった。


「現部長さんも異存ないみたいですし、元部長さんも歓迎なら大丈夫ですよね」

「もちろんよ。私は今年からあまり顔を出せないかもしれないけど、これからよろしくね」

「はいっ、よろしくです!」


 快活な声で返事をしつつ笑みを咲かせる志賀。

 ついでに俺の方にも目配せしていたが、その眼差しはやはり小憎たらしかった。

 ……さらば、俺の安らかなデブ研ライフ。



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