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スリップ

 「欲が深い以外に不都合はありますか」


 「いいえ、無いと思います。口はそれはもう固いですし、手品のようにどこからか物を調達してくるのですよ」


 「それなら、良いと思います。お手数ですがその人を紹介してください」


 「分かりました。連絡を取りますので、二日後の早朝にこの家へ来てください」


 こうして、少年を助けた縁で、商人を紹介してもらうことが出来た。

 僕に課せられたミッションは、今のこころ及第点きゅうだいてんだろう。

 早く帰って、〈アワ〉に報告してやろう。


 「この燻製肉は、紹介のお礼です。手作りですが、新鮮な肉を使っているのですよ」


 パッと見た所、この家に食べ物が見当たらないので、少し燻製をあげることする。

 二日後の早朝までに、栄養失調なんかで倒れられたら困るからな。


 「あらあら、こんなお高い肉は受け取れません。息子の恩人の〈はが〉さんから、逆に頂くのは、とてもおかしなことです」


 お母さんはそう言いながら、僕が差し出した肉を真剣な目で見ている。

 怖いくらいに凝視しているぞ。


 少年は泣きそうな顔になっている。

 お母さんが僕の申し出を断ったから、絶望しているようだ。

 それでもお母さんに文句を言わないのは、お母さん思いの良い子なんだな。


 「それじゃ、代わりに何か袋がありませんか」


 「袋ですか。うちには粗末そまつなズタ袋しかありませんが」


 「【咬鼠】の毛皮と肉を入れるだけですから、それで良いです。そのズタ袋と燻製肉とを、交換してください」


 「本当に良いのですね。分かりました。ズタ袋だけでは申し訳ないので、今私が着ている服も一緒にどうぞ」


 お母さんは僕の返事も待たずに、グレー色の着古したワンピースをその場で脱ぎ出した。

 僕は〈えぇー〉と思ったけど、止める間も無かったんだ。


 お母さんは、、グレーになってしまった元は白いスリップ一枚の姿になってしまった。

 そのスリップには穴が開いていて、お母さんの白い素肌が覗いていたが、僕は出来るだけ見ないように努めるしかない。

 ジロジロと見る場面では、絶対にないよな。


 僕はお母さんと少年にお礼を言って家を出た。

 扉を閉めた後、おっさんの服を取り出すことも忘れない。

 もしも血のついた服が誰かに見つかれば、お母さんと少年がトラブルに合ってしまうからな。


 ◇◇◇◇◇◇ 〈アワ〉の視点 ◇◇◇◇◇◇


 〈はがと〉が無事に部屋へ戻ってきた。

 部屋に入って来たとたん、「へへっ、服を手に入れたよ」と鼠色で女性用の服を私に渡して、ニコニコと微笑んでいる。


 何でも、少年を悪いヤツから助けたので、その子のお母さんからお礼に頂いたそうだ。

 でも〈はがと〉の様子が何だか変に見える。

 お肉と交換したと言うズタ袋から、男物の服を取り出す動きが変なんだ。


 服を私へ見せないようにしているみたい。

 服についた黒いシミと、〈はがと〉の瞳の奥にも、嫌な陰がチラついている気がしてくるわ。


 男物の服はどうして手に入れたのよ。

 たぶん、その悪いヤツを殺して剥ぎ取ったんだわ。

 黒いシミを私に見せたくないのでしょうが、どう考えても血だと思う。

 微かに匂いもしているんだ。


 だけど、〈はがと〉が悪いんじゃないと思う。

 お母さんの紹介で、商人に会えることになっているんだから、少年を助けたのは本当のことだわ。

 私に直ぐバレる嘘を、吐いてもしょうがないもの。


 「〈はがと〉、ありがとう」


 私は背中から抱きしめて、〈はがと〉へそっと感謝の言葉をかけた。


 〈はがと〉は「へっ」って間抜けな声を上げていたけど、〈はがと〉は本当に良くやったと思う。

 一人も知り合いがいない全く知らない所で、ちゃんと服を手に入れて、商人も見つけてきたんだ。

 私は〈はがと〉に頼んではいたけど、半分以上無理だと思っていたのよ。


 でも〈はがと〉は、かなり無理をしたんだと思う。

 どういういきさつかは分からないけど、人を殺してしまったんだ。

 平気な顔をしているけど、心がささくれているのが、私には良く分かるわ。

 ずっと何日も〈はがと〉と過ごしてきたから、何となく分かってしまうんだ。


 私が〈はがと〉を抱きしめたのは、瞳の奥の陰が薄くなるように、祈りを込めるためだ。

 〈はがと〉の頑張りに私が心より感謝しているのと、こんなことで私は〈はがと〉を避けたりしないことを分かって欲しかったの。

 ささくれた〈はがと〉の心を、私の体温で少しでもいやしてあげたかったんだ。

 〈はがと〉は「たいしたことじゃないよ」と言ったけど、私は感謝しているんだよ。


 「ただ、服は手に入ったけど、下着がないから着れないな」


 鼠色の服はの生地は、それほど厚くないから、これ一枚だけではとてもじゃないけど怖すぎるよ。

 胸やお尻の形があらわになってしまうから、これで人前には出られない。

 恥ずかしいし、余計な注目を集めてしまうよ。


 「あっ、男物だけど下着はあるよ」


 〈はがと〉がズタ袋から出してきたのは、木綿のシャツとパンツだ。

 知らない男性の下着か、私はそれを受け取って、しげしげと見てしまう。

 下着を履かないのは、すごく問題だけど、このパンツは無いわね。

 気持ちが悪いし、第一私には大き過ぎる。


 しょうがないから、シャツだけ着ることにしよう。

 ガバガバだけど、お尻まですっぽり隠してくれるから、スリップみたいなものね。

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