秋は好きだけど
秋なんて大嫌い (1234)
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作者:本羽 香那 先生
の二次創作です。
作者の本羽 香那 先生より許可をいただいております。
※ しいな ここみ 先生主催の【リライト企画】参加作品です
私も、秋が好き。
秋は好きだ。
夏の暑苦しさから解放されて、涼しく過ごせる。
スポーツの秋なんて、使い古されたフレーズも。体育の授業では、あの炎天下から逃れられるってだけで、充分ありがたみがあるってもの。
ところが、その秋。
最近は、残暑の居座りが長引き。いつまでたっても、涼しくなりやしない。やっと快適になったかと思えば、もう肌寒いんだもん。
私の好きだった、秋。
夏と冬にじわじわと両端から削られて、痩せ細ってやしないかい?
四時間目の体育の授業へと、体操着に着替える私は。10月末であるここのところの寒空に、うんざりするのであった。
たしかに、きのうまでは寒空だったはずである。
だけど、この好天気。秋も半ばを過ぎたと言うのに、きょうの、それも昼間は暑かった。
うちの学校の風習で、11月まではジャージの上着を授業では着られないかわりに。体操シャツは半袖のものだけでなく、長袖も存在していた。
ここのところの気温をかんがみて、長袖を選んで持ってきたあたしは、クラスメイトの大半が半袖であることに愕然とする。
おそらく、きょうのような暑い日も想定して、半袖・長袖の両方を持ってきていたのだろう。長袖を巻き上げてやっても、運動中にさがってきてしまうだろうし。なにより、半袖に比べて長袖の体操シャツは幾分、厚手だ。
せっかくの秋なのに、暑苦しい体育の時間になるであろうことにうんざりしていた私だったけれど。
そこにクラスの男子である、鈴木が声をかけてきた。
「佐藤。
おれ、新品の半袖、もう一着あるから貸してやろっか?」
更衣室に引き返すと、まだシワのない、きれいに折りたたまれた一枚のシャツを持ってくる。
は? なにそれ?
たしかに、まだシャツを着替えてくる時間くらいあるものの。
未使用とはいえ、あんたの体操シャツで、体育の授業を受けろっての?
しかも、この場合。体操シャツの胸元に書かれたふたりの苗字が揃ってしまう。未使用でも、未開封ではないらしく。すでにそのシャツにも「鈴木」の文字は、でかでかと油性マジックが走らされていた。
小学生のあいだでは、苗字がかぶっただけで「結婚」だの「夫婦」、よくても「兄弟姉妹」だのとからかわれるのだ。
それが本名のせいなら、あきらめもつくのだが、幸いなことにうちのクラスに佐藤も鈴木もひとりずつしかいないのに。わざわざ、からかわれるネタをこちらから提供してやることもあるまい。
「ありがとう。
でも、だいじょうぶだから」
私は、やんわりと断らせてもらった。
いいやつではあるし、友達として好意はあるけれど「夫婦」だとか、冷やかされるのはちょっと……。
せっかくの申し出のところだが。鈴木もべつに気を悪くしたふうではなく、あっさりとシャツを更衣室へと戻しに行った。
でも、なぜだろう?
クラスメイトから、そんなふうにからかわれることを想像してみた私の胸を、きゅっと締めつけるような感覚が訪れたのは。
理由もわからない、この甘い疼きに。
巻き上げた長袖が、早くもさがりおちてきた体操シャツの心臓のあたりを、無意識に、ぎゅっとつかんでいたのだった。
からかわれるでしょうね。