08.そのあと
続きです。
ラッシュネストは翼を広げて飛び立った。
上へ上へと目指す。
ロングフォードの国が小さくなった頃、地上が光った。
遅れて、大きな爆発音と風が青い竜を襲う。
ラッシュネストは大きな翼を広げ、禍々しい風が遠くまで広がらないように操った。
しばらくすると、光が消えて静寂が訪れる。
地上は砂に覆われた大地に変わっていた。所々に高い建物の残骸が転がっている。
広い砂場で、生きて動いているものは見当たらない。
ラッシュネストがゆっくりと地上を目指して降りると、魔物がいた場所には小さな竜の石像が残っていた。
竜に、ゆっくりと近づく。
何かを抱きかかえるように、小さく丸くなっている姿を見て、少し自嘲気味に笑った。
「ルネサス…」
ラッシュネストは20年前から、ロングフォード国で医療に関わっていた。
イーリアスの家系が行う医療行為は、これまでと違って精霊の力を使ったものだ。
それを学ぶために、一緒に研究を続けていた。
そこへ、最近になってルネサスが現れた。
母が死んだ事を伝えに。人間に殺された事を伝えに。
元々人間嫌いのルネサスは、なぜ父が人間と一緒に研究をしているか理解できなかった。
一緒に竜の群れに帰ろうと言い張るルネサスに、人間を理解させようと力を封印して送り出したのだ。
記憶まで封印してしまったのは、計算外だったが…
ラッシュネストはため息をついた。
「予想以上に、人間好きになったな」
人間の姿に戻り、石になったルネサスの体に手を当てる。
ひんやりとした体から、返事が返ってくることはない。
「最後は…後悔なんてしてないか」
笑うと、再び竜の姿に戻って飛び立った。
イーリアスはトール国出身だった。
久しぶりに立つ自分の故郷は、相変わらずせかせかと歩く魔術師が多い。
何に追われているのか、足早に歩く人々を遠くに見て目を瞑った。
膝の上の硬くなっていく小さな身体の体温を確かめて、ため息をついた。
ラッシュネストがトール国の外れに降ろした後、アイシアスは水晶の力で兄の姿を追った。
意識が消えそうなエシャロンの姿に声をかけた後、そのまま倒れてしまったのだ。
消えない涙の跡に、空を仰いだ。
「戻ってくるよね…?」
呟いて目を閉じる。
長い時間が過ぎ、イーリアスの目に涙が滲んできた頃、強い風が辺りを包んだ。
結局、ロングフォード国民は全滅でした。
次で最後です。