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竜の子と継がれる呪い  作者: よし
6/9

06.魔法陣

続きです。

エシャロンの予想以上に、城は死人達でいっぱいだった。

城を守る剣士達の姿が多いが、時折、小さな体も見かけた。

その姿に、エシャロンは悲しそうな視線を向ける。

どうしても、アイシアスやルネサスと重ねて見てしまう。

目の前の死人を槍で払い、ため息をついた。

そんなエシャロンをルネサスは睨むように横目で見ていた。

この甘さは何とかならんのか。

戦いの中で、エシャロンのような感情は命取りになる。

呪い云々以前の話しだ。

軽くため息をつきながら死人達の足を斬って行くルネサスを、ラッシュネストは不思議に感じていた。

ルネサスの事は産まれたときから知っている。

他の竜と違い、勝手な人間を理解しようとする気がなく、常に避けて暮らしていた。

その子が、今は人間を守って戦っている。

小さい体の死人は切り刻んだりしない。

大人も最低限にしか斬らない。

エシャロンとアイシアスを傷つけないためだ。

「何だ?」

少し笑うと、ルネサスが不機嫌に隣へ並んだ。

「俺を見るな」

そう言って目の前の死人を力一杯斬りつけて、再びエシャロンの横へ戻って行く。

ラッシュネストは苦笑いして視線を前に向けた。

目的地は、目の前だ。

「あの扉の向こうに魔法陣がある。…覚悟しておけよ」

エシャロンとアイシアスの顔が、緊張してこわばる。

ルネサスが目の前の扉を開けた。

「早く来い」

中から死人が出てこないのを確認して、扉の中へ入っていった。

3人が中に入るのを確認してから、ラッシュネストは中へ入って扉を閉める。

しばらく扉に体を預けて様子を伺うが、やはり死人達が扉に向かってくる事はなかった。

外に逃がさないため…だろうな。

街の死人達も、建物の中までは襲ってこない。

この国から外へ逃げないようにしているだけ。

サイトジーンの魔力は、あの魔物に国民を全て食べさせるために、死人を操っているのだ。

部屋の中には、大きな魔法陣が描かれていた。

魔法陣の前には、血溜まりで床が汚れたままになっており、その中には2組の骨が置かれている。

魔法陣の一部として、解析が終わるまで保管されていた。

「父様…母様…」

エシャロンが小さな声で呟く。

あの日、別れたときに着ていた服が落ちている。その中に、細く小さく変わった体が入っている。

変わってしまった2人から視線を外し、エシャロンはアイシアスを連れて魔法陣を調べ始めた。

ラッシュネストも、この魔法陣を見るのは初めてだった。

ルネサスも興味ありそうにウロウロしている。

「確かに呪いを発動させる魔法陣だけど…」

アイシアスが床の紋様を丁寧に見ながら歩いて行く。

両親の遺骨を、魔法陣の上に置いている意味があるはずだ。

母の服に重なるように置かれている父の服を見て、2人の手が取り合っているように重なる骨を見て、エシャロンは胸を押さえた。

きっと、父は母を守ろうとして力尽きた。

完全に癒えていない傷口が疼く。

ルネサスは腕を組んで考えていた。

2人の両親を捧げる必要があった理由。

さらに、サイトジーンの血も必要だった理由。

呪いを発動させるだけなのに、普通よりも大きく描かれた魔法陣。

何かが引っかかった。

この部屋にいては、いけない気がする。

モヤモヤとした感覚に不機嫌に目を瞑ると、アイシアスが覗き込んできた。

「ルネサス様」

予想より近いアイシアスの顔と声に、ルネサスは目を開けて驚いた。

「な、何だ?」

動揺した声を漏らして、顔が赤くなる。

アイシアスは、そんな態度など気にせず魔法陣を指差した。

「あの紋様の意味を、知っていますか?」

示された部分を、ルネサスとラッシュネストが覗き込む。

「これは…」

ラッシュネストが眉をしかめ、ルネサスは不機嫌な顔に戻った。

「あの魔物に知能はないな」

ルネサスの言葉にラッシュネストが頷く。

これでは…

「エシャロン、この国を出よう。あの魔物を倒す術はない」

「で、でも…」

慌てるエシャロンに、ルネサスは無表情な顔を逸らす。

あの魔物を消すには、エシャロンを捧げるしかない。

それが、ルネサスの答えだった。

ラッシュネストは意味を理解して腕を組んだ。

「ルネサス様、ちゃんと説明してください」

アイシアスが詰め寄ると、ルネサスは表情を崩して一歩下がる。

その様子をポカンと見ているエシャロンに、ルネサスは助けを求めるよう視線を送った。

怒っているアイシアスはエシャロンも苦手だ。困った顔で首を振る。

「説明して!」

「わ、わかった」

さらに詰め寄るアイシアスに、ルネサスは顔を赤くしながら手を前に出して、止まるように合図した。

「正直に話してください」

逃がさないように手を握ってくるアイシアスに、ルネサスは赤い顔を引きつらせながら頷く。

ラッシュネストは、笑いを堪えてその様子を見守っていた。

「まずは、あっちから説明する…」

ギクシャクと、ルネサスは手を繋いだまま魔法陣の端に移動する。

「ここに描かれているのは、お前が言うように呪いを発動させる紋様だ。だが…」

ルネサスは少し屈みこんで、小さな文字を指差した。

「ここに条件が追加されている。その条件を満たすまで、魔物は動き続ける」

ルネサスは再び、手を繋ぎながら移動する。

「条件は、これだ。ロングフォード国民を喰らう事と、生贄の血を引いた生命を取り込む事。2つの呪いが同時に動いている」

さっき、アイシアスが聞いてきた紋様の場所に移動する。

「条件が満たされると、奴が作り上げた魔物は弾け飛んで消えるが…」

両親の遺骨に視線を送った。

「条件の1つに書かれている生贄は、あの2人だ。エシャロンの命を捧げないと呪いは終わらない」

握る手に力が入るアイシアスの表情を伺ってから、また言葉を続ける。

「捧げる命は、成人した人間でなければならない。お前の命には資格がない」

見透かされた言葉に、アイシアスは悲しそうな表情で俯いた。

「それに、条件を満たすと魔物は爆発する。この辺一帯が吹き飛んでしまう。誰も逃げられない」

ラッシュネストが2人の後ろに立って肩を抱く。

「魔物に捧げた魂は、永遠に闇の世界を彷徨う事になる。それは…許されない」

エシャロンは目眩がして立ちすくんだ。

このまま一生、逃げなければいけないのか。

皆を巻き込んで?

ラックは自分が逃げている間、ここで彷徨い続けるのか。

地面が微かに揺れた。

ラッシュネストとルネサスの表情が強ばる。

「来たか…」

「国を出るぞ!」

ルネサスがアイシアスの手を引き、ぼんやりしているエシャロンの横で叫んだ。

ラッシュネストは3人に笑顔を向ける。

「私はイーリアスを連れて国を出る。生きてたら、また会えるだろう」

エシャロンは決心した顔で、ルネサスを見た。

「アイシアスはラッシュネストと行って。ルネサスの水晶を持ってるんだ。後から探しやすいだろ?」

ルネサスは少し考え、アイシアスの手を離した。

悲しそうに見上げるアイシアスの頭を、エシャロンは優しく撫でて笑顔を向けた。

「後で、また会おう」

ラッシュネストは、ルネサスの手を引いて壁側に寄り、エシャロン達に聞こえないよう離れる。

「記憶…本当にないのか?」

「ああ」

困った顔を向けて、ルネサスの頭に手を置く。

「お前の力を封印したのは私だ。封印は既に解けている」

笑顔を向けるラッシュネストに、意味がわからないと、ルネサスはさらに首を傾げた。

「イーリアスとアイシアスを隣の国へ送り届けたら、すぐ戻る。それまで、エシャロンを止めておいてくれ」

隣の国とは、どこなのだろうか?

「いつまで待てば良い?」

「1時間だ。そんなにかからないはずだけど」

この国を出るだけで、1時間だと思うが?

再び首を傾げるルネサスに、ラッシュネストは笑顔を向けた。

「私は…お前の兄だよ。竜の姿で飛べば、すぐ往復できるさ」

驚きで目を見開くルネサスに、ラッシュネストは笑顔のままアイシアスの手を引いた。

「じゃ、隣の国…トールで落ち合おう」

そのまま扉の外へ急ぐラッシュネストとアイシアスを見送り、ルネサスはエシャロンの背中を叩いた。

「行くぞ」

歩き出そうとするルネサスの腕を、エシャロンが引き止めた。

「ルネサス、飛べるようになったんだろ?」

湖から国へ戻る途中、ぼんやりとした頭で空を飛んでいるのを見た。頷くルネサスを見て、夢でなかったことを確かめる。

「空から、この国を見たい」

真っ直ぐなエシャロンの視線を受け止め、ルネサスは頷いた。

まだまだ続きます。

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