最後の勝利者
レーカは蒼い光に包まれる。纏う圧は以前にも増しており、ルリリは一歩下がった。その瞬間、レーカは距離を詰める。ルリリの眼前に現れたと思いきや、背後に回り背を打つ。
「か、はッ!!」
吸気が押され、唾と一緒に吐き出される。前面へ倒れるが、辛うじて手をつくことができた。ルリリは噎せるような咳を繰り返す。
胸の奥から何かが飛び出すような感覚は、どこかへ消える様子もない。うつ伏せ状態から身を翻し、レーカから距離を置いた。
「さあ、続けるわよ」
「っ……!?」
ルリリは目を細める。レーカは再び距離を詰め、胴を狙う。対してルリリは剣を斜め前方へ構え、手刀を受け流した。そして露わになった隙を突く。ルリリは上方から斬撃を叩き落とす。
「く……!!」
辛うじて受け止めることに成功するも、両手は塞がっている。レーカは腰を低く落とし、剣筋を左に逸らす。そのまま地を滑り、右方からルリリへ一撃を叩く。
「させないよ」
レーカの軌道上には既にルリリの脚先が置かれている。やがて脚先に激突し、レーカが蹴られる形となった。
「痛ぅ」
「さて、続けるよ」
レーカは目を細める。距離を置き、姿勢を正すと彼女はニヤリと笑ってみせた。
「……ルリリも、やるね」
「だって、負けられないなら」
ルリリは軽くレーカの表情を窺って、人差し指を立てる。心做しか口元も緩いカーブを描いていた。
「それはなんの意図?」
「さぁね、見てればわかるよ」
ドクドクと脈を打つ胸に手を当て、ギュっと拳をつくる。ルリリは剣先が体幹に隠れるように、後方へ腕を引く。所謂、居合切りの型だ。
「それがルリリの必殺技なのね」
「次で決める」
レーカは左右の手刀を中央で重ね合わせ、その手を外側へ開く。両手の間に生成された太刀を握ると、ルリリへ肉薄する。ルリリまでの距離は概ね間合い五つほど。その距離を二秒で詰め、太刀を横に薙いだ。
ガツン、と響き渡る金属音に目を見張るレーカ。
「ほらね、見てればわかるでしょ?」
ニッと笑い声。
太刀が空を斬ったのも束の間、くるくると宙を舞った。その瞬間に剣先を切り返し、レーカの喉元へ突きつける。
「……私の負けね」
ルリリによって、レーカの太刀は弾かれていたのだ。
「勝負ありっっ!! 勝者、ルリリ選手〜ッ!」
ルリリを称える歓声がステージを包む。上下する肩を整え、胸を撫で下ろす。歓喜に震える涙のせいなのか、いつにも増して日差しは強くルリリの目は眩む。
息が整うとようやくルリリは言葉にした。
「よかった……!」
***
大会で優勝した後。ルリリ達はブルメの森へ帰っていた。
「ルリリ、良くやった」
そこでルリリのターコイズの髪はもみくちゃになっていた。主に、キマリという母親の手によって。キマリの口調も心做しか浮ついている。そのためかルリリの口元ははにかんでいた。
「うん。私、頑張ったよ。お母さん……」
「流石、私の子」
そう褒めながら、キマリは誇らしげにルリリの頬を両手で摘んでいる。歓喜と若干混じる恥ずかしさにルリリは紅潮していく。そんな中で傍目のレーカと目が合った。
申し訳なさそうに笑みを浮かべるレーカへ、こっそりと手を振る。
「む。ルリリ、他の女の事を考えた? お母さん、嫉妬……!」
キマリに強く抱き締められながらレーカへ助けを求めるルリリ。
「もう、お母さん。やめてってば〜!!」
ルリリの羞恥の叫びが森に木霊していた。




