なぜ親は時にバカと呼ばれるのか
久々に(ようやく)更新できました。
「さてさてさてさてー! 始まりました決勝戦ッ!! 対戦カード一人目は……ノーネイム改めレーカ選手!」
実況アナウンスとレーカの登場により、会場は沸き上がった。審判がレーカ側とは反対の手を持ち上げると続く選手が入場する。
「そして相対するのは〜ルリリ選手! どちらが大会を制するのか予想だにできません! どちらが勝つと思いますか? 今回は特別ゲストに聞いてみましょう」
実況席ではマイクが誰かに手渡されたようだ。戦うステージから実況席を見上げる二人。
「流石に俺の娘が勝つんじゃないかな。キマリはどう思う?」
「もちろん。私の娘が勝つにきまってる、当然。……あと立場上敵の私に同意を求めないでよアトラス」
身に覚えのある会話にルリリとレーカは赤面する。思わず額に手を当てて空を仰ぐ。実況を差し置いて、言い合いを始める親バカ二人にレーカは肩を震わせている。
その心境はルリリも同様だったようで――
「もう! 何やってるのお母さんたち!?」
堪忍袋の緒が爆ぜた。ルリリの頭からは蒸気が湯立っている。
「この、バカ親ぁーーーっ!!」
「えっ、バカ親? わたしが?」
自覚が無い様子のキマリに溜め息をこぼすルリリ。レーカはそっと彼女の肩に手を乗せた。
「こ――。こほん! え、英雄様。すみませんが進行させてください」
「「すまなかった」」
嘆く実況係にアトラスとキマリは揃いも揃って謝罪する。
「え、えーっと。仕切り直しまして、レーカ選手対ルリリ選手! 観客席にいらっしゃる皆様はこの一戦をしかと見届けてくださいまし!」
ステージ上で対峙するレーカとルリリ。嵐の前の静けさに似て、互いに言葉を発することはない。宿るのはジリリと燃える闘志のみである。
――“それでは、試合開始!!”
開戦の合図は鳴った。
「力を貸して。甲殻武装、ブルームスター!!」
「甲纏武装、ムシヒメノツルギ」
ルリリは碧く輝く剣を顕現させ、レーカは肘から先を硬化させる。手刀よろしく腕刀といったところだ。
「この一戦、要注目ですよ! ルリリ選手の戦い方によっては、戦況が裏返ることでしょう!!」
この戦いは言わば、フェイントでミスを誘えばルリリの勝利、フェイクを見破ればレーカの勝利となる。それを見越しての実況に汗が額を伝った。ルリリは内心、逃げ出したい気分である。
「ん。でも、逃げない。私は勝つよ、レーカ!」
ルリリは早速、能力を使う。目眩しと同時に加速し、レーカの懐に入り込む。するとすぐにルリリは剣を振り上げた。
「ッ……!」
咄嗟の反射で後ろへ躱し身を翻す。そのままの勢いで腕刀を振るった。斬撃はルリリの頬を掠めるに留まり、ルリリのカウンターが炸裂する。
「……ッ開放!!」
瞬間的に攻撃の速度が上がり、ルリリの剣が硬化した腕を捉えた。
斬撃の勢いをレーカの腕に押し付け、レーカの身体は後方へ飛ぶ。辛うじて受け身をとったが、レーカの肘は出血していた。
「や、やるわねルリリ……」
「だって、レーカに憧れて……修行したから!」
――“だから本気で戦って、レーカ。”
「なッ!?」
「気がついてないとでも思ったの? ここじゃハイネをやっつけた時の技は使えなくても、本気で私と戦って」
レーカの表情は曇る。実況席に座る父親へ視線を逸らす。レーカと目が合うと、アトラスは笑顔で頷いた。
「……分かった。本気でルリリと戦う。そして私が勝つ!」
「うん、その意気。でも勝つのは私だよ」
レーカはニッと笑みを浮かべ、全身に力を込める。
「フォーミュラ・バースト!」
レーカは血流を加速させ、手刀を延長させた。ルリリは接近するも手刀に弾かれ、仰け反ってしまう。姿勢を崩したルリリの背後に回り、レーカは追い討ちをする。前方に飛ばされたルリリは受身をとることなく、地面に激突した。
「はぁ、はぁ……」
呼吸は荒くなる一方、思考は鮮明に恐怖を映し出す。蒼い闘志を身に纏った鬼神が、眼前にいた。