VS.(ヴァンキッシュ・スピリット)
「いくよ、ネス!」
「ああ、かかってこい」
ルリリはネフテュスへ肉薄し、能力を発動させる。眩い光で視界を奪うと、ネフテュスの得物を斬らんと剣を下ろす。
しかし、斬撃は空振りに終わった。ルリリの視界にネフテュスの姿はなく辺りを探す。
「お前ならそう来ると思ったぜ」
背後からの殺気に素早く反応し、前方へ転がる。受け身の勢いそのままに身体を翻し、体勢を立て直す。剣を下段に構えると、ネフテュスと向かい合った。間合いは二、三メートルほどで、一瞬で詰められてしまう距離だ。
「なッ、今……どうやって」
「試合中に教える馬鹿がいるか! ……とりあえず、周りを見てみろよ」
言われて気づく。周囲は霧に包まれ、見通しの悪い視界へ変貌していた。ステージを包む湿気にネフテュスの独壇場となっていた。
見えない箇所からの攻撃にルリリは姿勢を崩す。しかし、ルリリの目は笑っていた。咄嗟に周囲を光で照らす。瞬発的にホワイトアウトしていく空間にネフテュスは足を滑らせる。
「ぬわっ!?」
「わざわざ教えてくれるなんて親切だね! ばかネス」
「何を……」
「ネスならそう来るだろうって思ってたから」
倒れたネフテュスの近くまでやってくると、ルリリは何も対策してない訳がないと顔で話す。そのニヤケ顔はあまりにも憎たらしく、思わず拳に力が入る。ネフテュスはすぐさま立ち上がると矛を構えて叫び出した。
「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!! 顔がうるせえんだよ! あぁもう、本気でいくからな!」
ネフテュスの胸の内で鼓動がドクンと跳ねる。気がつけば全身の血管がオレンジ色にぼんやりと輝く。血流が加速し、全身の瞬発力、身体能力が上昇する。
「……ん、私も本気の本気で相手するよ!」
ルリリも全身の血管を収縮させ、そして血流を加速させた。間合いを探り合うのも束の間、先手を取ったのはネフテュスだ。
水蒸気の中を加速し、ルリリとの間合いを詰めていく。ルリリの喉元目掛けて矛を突き出す。しかし矛先が喉元に到達することはなく、ルリリの剣捌きによって軽くいなされる。下方に姿勢を崩し、矛は地面に突き刺さった。その隙を見逃すはずもなく、ルリリは斬撃を見舞う。ネフテュスは地面に突き刺さった矛を逆手に取り、矛をポール代わりにして宙に身体を浮かせる。自由になった足でルリリを蹴り飛ばした。
「痛ぇ……!」
「……っ!!」
左手首からパックリと血が流れるネフテュスと胴を蹴られて蹲るルリリ。腹の痛みに敵意剥き出しの様相でネフテュスを睨みつけた。
ゆっくりと姿勢を起こし剣を構える。次はルリリが攻めに入った。上段から振り下ろし、勢いそのまま横一文字に斬り結ぶ。リーチに長けた矛は次々とルリリの斬撃を阻む。ネフテュスは隙を探り一撃を入れるも、身軽な動きで躱されてしまった。
「ッ! 速い……」
「ルリリ、疲れが見えてきてるんじゃないか? ほらほら」
声高に煽り、その場で飛び跳ねるネフテュス。
「覚えておいて、ネス。絶対に〇す」
ルリリは、挑発に乗った。
***
幾度となく金属音が響く。
ある時は打撃音、ある時は擦過音、そしてある時は破裂音。霧の中、素早く進む戦闘にステージ外の観客席からはほぼ何も視認できない。
「やあっ!」
斬撃と同時に光が視界を奪う。目が眩んだ隙をついて横へ回り込む。そして袈裟斬り。
「やっぱりズルいだろ、それ」
ガンッと音が鳴る。軌道を逸らされたことに気がつくも時既に遅し。隣を通り過ぎていくルリリをネフテュスは見逃さない。矛を構え、甲殻武装目掛けて一撃を放つ。
「ッ!!」
逃げ場はない。このままでは敗北が確定してしまう。
「させない!」
ルリリは矛を真向から受け止める――はずもなく、斜め上へ進行方向を逸らす。そして隙間を縫うように身を翻して、矛先を斬り落とす。
「「――――ッ!!」」
ステージ上を覆う霧が晴れていく。一人は倒れ、一人は地に足をつけている。
「はぁはぁ、はぁ」
「勝負あり〜〜!! 勝者は、ルリリ選手だぁ〜!」
舞台を彩るアナウンスに観客は沸いていた。