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マディブのふたり

「今頃、あの子はどうしているだろうか……」


 マディブの地で、レギウスはブルメの学校に転校した少女に思いを馳せる。その横では、ファルがソファーに腰掛け、脚を組んでいた。


「フン、アタシには関係ないね。ここを出て行ったんだ。アタシらにも今、するべきことがあるだろう?」

「そうだね、ファル。でも、そこまで意地を張らなくてもいいんじゃないかな?」

「うっ、それは」


 ファルは言葉を詰まらせるが、レギウスはそれを暖かい目で見つめる。書類に目を通しながら、レギウスはファルに話しかけた。


「それに、噂程度の話だけど」

「ん? なんだ?」

「ハイネが圧力をかけているらしいんだ」

「圧力だぁ? たった一人が圧力をかけて何になるんだよ?」


 レギウスは、噂にしてはあまりにも馬鹿げている話を口にする。

 それはハイネが化け物へと変貌してしまったということ。そのためにブルメの皆が恐れているということ。


「な、に……っ!? そんなことが、本当に有り得るのか」

「いや、真実は俺にもわからない。でも噂で流れて来るくらいだ、何かしら似たことが起こっているんだろう」


 レギウスは簡単に憶測を口にする。ファルの頬に冷たい汗がツーッと流れた。その時、ドアをノックする音が響く。


「どうぞ。入ってくれ」

「はっ! 失礼します……でござる」

「なんだ、ミーゼンか」

「それは酷いでござるよファル様……」


 部屋に入ったミーゼンに小言を吐き出すファル。ファルのため息を見てミーゼンは凍りついたような表情を浮かべた。その反応を見てファルは微笑む。


「……冗談だ。で、要件はなんだ?」

「ええと、ファル様が目にかけていたあいつが帰ってきたんでござる」

「プリモが!? それは本当か!?」


 ミーゼンはゆっくりと頷き返す。レギウスもミーゼンのほうを振り返り、そして窓へ視線を向けた。


「そっか、どうやら噂は本当だったみたいだ」


 そう、呟きを残してレギウスはプリモ()()のもとへ出向く。



 ***



「もう少しでマディブに到着するわね。レインとルリリはマディブに来たことはあるの?」

「いいえ、来たのは初めてよ」

「マディブは一度もないよ」


 プリモの質問にノーで返すレインとルリリ。それならばと、プリモは笑顔で話す。


「なら、おすすめの場所を沢山案内してあげるわ。覚悟しなさい?」

「う、うん……。楽しみにしておくわ」


 やけに自信満々なプリモ。レーカは若干、中身のほうに警戒しつつもこくりと頷いた。


 ──そして、マディブの森に到着。


「おおおおぉ……!」


 ルリリが街の様子に目を輝かせている。

 それもそうだろう。今のマディブは昔とは大きく違う。街の賑わいが異なるのだ。人々の喧騒はお祭り騒ぎで(そら)には提灯がたくさん登り、蛍が街を照らす。その中で笑い声が止むことはなく、住民の心と心の距離がとても近い。そんな楽園だ。


「すごいわよね。これも師匠の偉業なのよ」


 ふふん、と胸を張って上機嫌に語るプリモ。プリモの師、ファルは元魔蟲としての実力をこの居場所(マディブ)のために惜しみなく使っていたのだ。

 街の中を散策して、遂にマディブの学校の中へ入る。


「やあ、久しぶりだね。プリモ」

「ふん、なんだ。もう根をあげたのかプリモ……いや、違うみたいだな」


 レギウスとファルが出迎える。プリモは一歩前に出て、声を張りあげた。


「ねえ! 帰ってきて早々だけど……お願いがあってここに来たの!!」

「お前がここに来て、大体の察しはついたよ。ハイネの噂だろう?」

「うん……。力を貸してもらえませんか? どうか、お願いします」


 プリモは必死に頭を下げる。目の下をくぐる汗が、地面にポタリと落ちた。


「ああ、もちろんだ。ハイネの奴は、アタシにも借りがあるからな。いいだろう? レギウス」

「いいよ、俺も久々に戦うから」


 レギウスもプリモの頼みを了承すると、腕を持ち上げて背中を伸ばす。短くため息を吐き出して、レギウスは更なる提案をプリモへ持ち掛ける。


「プリモ。それに、レーカとルリリも、聞いてくれるかな?」


 名前を呼ばれ、慌ててプリモに駆け寄る二人。


「俺からもう一つ提案だ。この後でタランに向かうのはどうだろう? それとその時に、二人を連れて行って欲しいんだ」

「二人?」


 プリモが首を傾げる。しかし背後から聞こえた声の主に、顔を大輪の花のように輝かせた。


「プリモ~! 久しぶり~!!」

「その声は、ミツハ! 久しぶりね……!」

「久しぶりだな、プリモ」

「ショウも久しぶり」


 再会の喜びを分かち合う横で、レインはレギウスに尋ねる。


「あの二人も連れていいんですか?」

「ああ、いいんだ。あの二人も寂しかっただろうし、なにより心強い味方になるだろう?」

「……はい!」


 レインは強く首を縦に振ると、空を見上げた。空を行く雲はちょうど、タランの方角へと流れている。レインは一瞬見えた不安を隠すと、プリモ、ミツハ、ショウ、そしてルリリへ目を向ける。


 やがて、虫は飛び立つ──。


「ファル! レギウス! 今まで、ありがとう。それじゃあ、いってくるね!」


 プリモは二人に挨拶を交わすと、ショウ、ミツハを連れてレインとともにタランへ向かう。賑やかな彼らの背中を見て、ファルは呟く。


「……寂しくなるな」

「うん、そうだね」


 レギウスはそっと頷き、分身(ファル)の肩の上に手を乗せる。心のどこかが()いた感覚とともに笑顔を浮かべる二人。

 旅立つ瞬間が、なんとも嬉しかったのだ。



 ***



 そうして、ミツハとショウが仲間に加わり、これからレインたちはタランの森を目指すことになるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] プリモちゃん、ファルの弟子的な存在だったのか。 そりゃあ強かったわけだぜ。 そしてそして……賑やかな旅になりますな( ´∀` )
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