堕ちた鳥
誤字・脱字、設定のミスはご了承ください。
繰り返される地獄の中、それは唐突にやって来た。
いや、流れ的にはまったくおかしくない。
この地獄が永遠と続くのなら、いつか来るとわかっていたことだ。
単純に、順番が回ってきただけなのだから。
俺たちは、いつも通り戦場に出ていて、とにかく生き残るために戦っていた。
もう誰が敵で誰が味方なのか、一目ではわからないような泥沼戦。
目の端で見知った仲間の一人が倒れるのを見ながらも、俺にも助ける余裕なんてなく崩れ落ちていく体躯を映しただけだった。
最初はあれほど忌諱していたことも、何回も繰り返されれば勝手に慣れてくる。
地獄だって何十回も繰り返されれば、日常だ。
敵を殺しながら、味方が死んでいくのを見ながら、どこまでも機械的に戦況を見る。
ただ、その日はいつもと少し違った。
基地で、新たなる兵器の活用が説明されていたからだ。
この国も、いよいよ危なくなってきたらしい。
追い詰められた国は、安価で破壊力のあり、なおかつ大量生産できる兵器に手を出した。
だが、いくら安価で威力も抜群と言えど、どの製品にも欠点の一つや二つあるものだ。
この兵器の欠点は、その扱いやすさにあった。
扱いやすいということは、その分簡単に発動してしまうということでもある。
本当に簡単な動作で作動するそれは、作動しようとしてないところで作動してしまうのだ。
そして、そのときはすぐにやって来た。
今回は兵器の初使用ということで、中央からの役人も来ていた。
決して安全と言えないこの戦場にノコノコとやって来るのは、どう考えてもアホとしか形容できないが、お偉方にはそれがわからなかったようだ。
一旦引けという、上からの指示で敵を牽制しつつ後退する。
この時ばかりは、レーゼも大人しくついてきていた。
「…これ、大丈夫なんですか?」
隣に佇むレーゼにつぶやく。
「いや、まったく大丈夫じゃないと思うな-。でも、何かあったらこっちの責任問題だから、頑張るしかないかな」
どこにいても、下っ端とはつらいものだ。
そして、俺たちの懸念通り――
それが、不自然にピコピコと光り出す。
「?おい、何をしている」
「っ、大変です!作動してしまって―――」
「早くどうにかしろ!」
「もう無理です!」
一気に辺りが騒然とする。
最初から半ば想定していた俺たちを含む数人だけが、落ち着いている。
「騒がないで。皆緊急待避」
ここに来て、レーゼが冷静な指示を出す。
しかし、逃げていては間に合わないだろう。
この兵器は残念なことに、とてつもない破壊力を秘めている。
今から逃げて、生き残れたとしてもこの前線は壊滅だ。
とはいえ、生きてなければ意味がない。
さっさと逃げる準備をする。
しかし、その中で一人だけ違うことをやっている人がいた。
レーゼだ。
「?何やってるんですか?」
「私はこれをどうにかする」
そう言って手に持ったのは、先程の兵器だ。
「は!?自分で言ってる意味分かってるんですか!」
「うん、分かってる。どっちにしろ、これをどうにかしないことに次はない。ちょうど向こうに敵方がいるし、そこにぶち込んでこようかな」
他の皆はとっくに逃げ出して、俺たちは最後尾だ。
止める仲間を呼ぼうにも、先導役でこの場にはいない。
「じゃあね」
そう言って、皆が向かう方向とは別の方向へと踏み出す。
「ちょっ、」
次の瞬間、風が吹いた。
その風は、強く、レーゼを軽々と持ち上げる。
しかし、何故か荒さを感じることはない。
ふわりとレーゼの髪がなびく。
それは、まさしく風だ。
あの日、俺が見たもの寸分も違わない。
どこまでも自由で、ここが戦場だなんて感じさせなかった。
こちらに向かっていた敵が、レーゼの姿に気付き、驚きの声を上げ始める。
当たり前だ。
何故かは知らないが、レーゼは戦場で飛ぶことはなかった。
それがどこから由来するのかはわからない。
風の力を使った方が、圧倒的に有利なはずなのに、簡単な補助以外で使うことはなかった。
「そーっれっと」
僅かに聞こえたかけ声と共に、遙か向こうの敵めがけてそれが落とされる。
そして―――
ド――――ッン
地底から、大きな揺れが響いた。
爆風が、十分な位置にいた俺の所にまで届く。
煙の向こうで、空から何かが落ちるのが見えた。
さながら、翼を焼かれた鳥が、地に落ちていくように。
やっぱ、オリジナルって書くのに時間かかるよね。