陸上競技部に入部する!?
入学式から、早くも二週間が経った。
僕、坂井貴治は学校生活にも慣れ、何気ない日々を過ごしていた。
『貴治さんよ、部活は何入るか決めたかい?』
この僕の横で、頬杖をつきながら話しかけてきたのは、柴川一樹である。
一樹とは、幼稚園からずっと一緒で、良いことも悪いことも一緒に行ってきた戦友だ。
『僕はまだ何も決めてない。
というか、帰宅部に入ろうかと考えています。』
と、答えた。
なぜ、このような考えを持つかというと、まず僕の通っている新手中学は全校生徒数も少ないため、部活動は野球部、バスケットボール部、テニス部、陸上競技部の4つしかない。
そして、一番の致命的な理由が、僕は基本的に球技が苦手だ。
だから、そうなるともし部活にはいるなら陸上競技部になるのだが、ただ走るだけの部活に何の魅力も感じない。
そのため、帰宅部として中学生活を楽しもうと考えたのである。
『ならさ、俺と一緒に野球部に入らないか?』
『僕、球技は苦手だから辞めておくよ。』
僕はあっさりと一樹の誘いを断った。
しかし、一樹は諦めず、
『苦手なものは、神様がそれを克服するためにお前に与えた試練なんだよ。
だから、俺と一緒にそれを克服するために、野球部に入ろうぜ。な、いいだろう?』
と、しつこく何度も言ってきたので、僕はそれを何度も受け流していた。
すると、そこへ一人の女性が近づいてきた。
『こんにちは。ちょっと聞きたいんだけど、貴方が坂井貴治くん?』
その女性は綺麗な人で、何というかなりの品がある人だった。
僕はどもりながらも、
『は、はいっ。そうですけど、何でしょうか。』
と、答えるのが精一杯だった。
『いきなり話しかけてごめんね。私は2年の小原結衣です。
今日は、坂井くんにお願いがあってきたの!』
僕はそれを聞いて、こんな見ず知らずの綺麗な人にお願いされたことがないので、それだけで卒倒しそうな勢いだった。
そんな状態の僕のことなんかお構い無しに、小原先輩は話しを続けた。
『お願いって言うのがね、私は今、陸上部のマネージャーをしているの。
でね、小学校時代坂井くんが足が速かったって友達伝いに聞いたから、陸上部に入るようにお願いに来たのよ。』
僕はそのお願いを聞いて、驚いた。
しかし、今の僕は、陸上競技部なんて入る気は微塵もなかったので、困った雰囲気をだしながら、断ろうとしたのだが、その前に一樹が動きだした。
『今、こいつと部活をするなら陸上部しかねぇよなって話してたとこだったんですよ。
ぜひ、俺と貴治を陸上部に入れて下さい!
あっ、ちなみに自分は柴川一樹と言いますんで、よろしくお願いします。』
そう言って、一樹は小原先輩と握手を交わした。
小原先輩もその一樹の返答が嬉しかったのか、大喜びしていた。
そして、二人は話しが盛り上がっていき、トントン拍子に今日の放課後、陸上部の練習に参加することが決まった。
『なら、今日の放課後待ってるからね♪』
そう言って、小原先輩は自分のクラスへと帰っていった。
小原先輩が帰ったあと、僕の怒りは勝手にいろいろ決めた一樹に向いた。
しかし、怒りをぶつける前に一樹が、
『俺、絶対陸上部に入るわ。
そして、小原先輩と仲良くなって、絶対に付き合ってみせるから。』
と、さっきまで頑なに野球部に入ることを勧めていたが人が、目をまるで少女漫画に出てくる登場人物のようにキラキラと輝かせながら言っている姿を見たら、気持ち悪くなり怒りも自然とおさまった。
そして、僕はとりあえず今日は練習に参加して、その後なんだかんだ理由をつけて、入部を断ろうと考えながら、授業へ向かった。