リベンジする側、される側。
同点弾が出たあと、こちらの猛攻が始まる。いや、熊野さんが立ち直る前にたたいておかねばならないのだ。
伊波さんも「カーブが甘く入る呪い」が発動した九郎坂さんから二塁打。能登間さんは地面に張られた結界を無意識に使ったセーフティーバントで1、3塁。
ここで俺が打席に。うーむ。後ろからものすごい「気」を感じるぞ。結界の張りなおしは完了したようだ。というのも本塁打で魔王の機嫌が治ってしまい、全般的に呪いが弱まったためだ。
結界魔法かぁ。異世界ではいちばん下のランクの支援魔法と状態異常魔法しか使えない俺にとっては高嶺の花。つまり魔法使いのレベルとしては空間魔法が使える熊野さんの方が上位者なのだ。
俺の対抗策は「命中率アップ魔法」しかない。これは「状況によらず」命中率がアップするからだ。そして体力倍化魔法を重ね掛け。人間は本来の筋力を限界の1/3しか使えない。それは怪我を防ぐためである。「火事場のくそ力」というように非常事態になって思考が混乱するとその限界値いっぱいまで筋力を使うことが可能になることがある。
それを魔法で再現したのが体力倍化魔法なのだ。さらに一撃魔法を重ね掛け。これは力というより相手の「急所」に攻撃を当てる魔法。「攻撃最大効率化」という表現の方が適切かもしれない。この場合、ボールの「急所」を狙うことに。
時限的な呪いでカーブを封じられた九郎坂さんは直球勝負。放たれたボールにバットが吸い付くように走る。スイートスポットでとらえたインパクトの瞬間、スイングの角度が微妙に変わる。なんだこの打ち方?
放たれた打球は新たに張られた結界をつき進む。右中間に鋭い弾道を進むボールはフェンス直前でホップしてスタンドに入った。逆転3点本塁打。
あとでケントにこの打席の映像を見せてもらったがケントは
「もの凄いスピンがかかってるね。これが揚力を生み出して結界の遅延効果を突き破ったようだね。」
と言っていた。
ただ腕の筋肉に物凄い負荷がかかったので習得しようとは思わなかったけど。今回の結界やぶりにはどうしても必要だったのだ。すぐに自動回復をかける。
8回、走者無しで熊野さんと勝負した中里さんだが中越えの二塁打を打たれるも失点せず。9回、俺に投げたいかどうか確認をとってきた。マウンドを譲る気なんてさらさらないクセに。
「いえ、最後までいってください。これは先輩たちのリベンジですから。まあ、もしもの時は骨は拾って差し上げますよ。」
と返すと
「おう、サンキュな。」
とだけ言ってマウンドへと駆けていく。
最後まで躍動感あふれる投球フォームを崩すこともなく、最終打者も因縁の遊ゴロに討ちとって4対2で試合終了。無事に夏の甲子園での雪辱を果たすことができた。
礼を交わした後、俺は熊野さんに呼び止められる。
「あれはいったいなんだったんだ?」
訊きたいことはわかる。
「祓ってくれるならお教えしますが。」
「いや、無理だろう。俺の神通力のレベルでは。」
「残念です。」
わかるでしょ?あんたより魔法のレベルが低い俺にはもっと無理なの。
次の試合との兼ね合いで早々に着替えをすますと、先輩たちは神宮大会の特集を組む雑誌のインタビューを受けていた。
「リベンジと言っても、活躍してくれたのはあの時いなかった1年生二人でしたから。先輩冥利に尽きる、ってとこですかね。」
「沢村君、決勝進出おめでとう。ちょっと話を聞いていい?」
記者の小原さんも来ていて俺も取材を受けた。ユカさんの場合、個人的な取材で俺がビッグになった時のためにいろいろと話を聞かれるのだ。
「あなたがプロ野球で新人王を獲ったら本にして出せるわよ、きっと。」
意外に大真面目で言ってるんだけど需要ありますかね?
いよいよ翌日は決勝。相手は四国代表(高知県)の土佐致道義塾高に決まった。高知県では無双の私立校で、名前も江戸時代の雄藩である土佐藩の藩校をルーツとする由緒正しい学校なのだ。しかし地元では「義塾」、他県では「土佐塾」と呼ばれ、肝心の「致道」は飛ばされている。ユニフォームの胸には「致道」と書かれているにも関わらず。
「リベンジ」という点では山鹿さんたちとは因縁が深いチームだ。昨年度の甲子園夏、春連覇の時にはそれぞれ準決勝、決勝で対戦して勝っているのだ。互いにライバルと言って差し支えないだろう。今度は再びこちらが「リベンジ」の対象なのだ。
俺たちの世代にとってもそうだ。去年のシニアの選手権で対戦した犬養太知もメンバー表に名を連ねていた。
あの捕手かぁ。逆球しか投げられない荒れ球投手の球筋を完全に把握していた頭脳派捕手だ。
ご覧いただきありがとうございます。不定期投稿のためぜひブクマをお願いいたします。できましたら評価もポチっとしていただけると励みになります。引き続きよろしくお願いいたします。




