「目には目を、魔には魔を」
かえって裏の作人館の攻撃。九郎坂がセーフティーバントで出塁。上村学園とまったく同じ手か。盗塁とバントで1死3塁。山鹿さんも盗塁阻止率は6割を超えるのだが「人間離れ」した速さでは対応できない。
どんな魔法か鑑定を試みたが、俺の鑑定スキルではそこまで判別できないのだ。4番熊野さんを当然敬遠。……のはずだったが、それを打たれてしまう。犠牲フライとなって九郎坂さんが帰って先制を許してしまった。
そのあとは2,3回もこちらは3者凡退。作人館も3回に九郎坂さんに内野安打が出たが3番で回を終わらせる。山鹿さんは熊野さんの前に走者を置かないという作戦を執る。
俺はとりあえず解除魔法をかけてみるが、術式が異なるのかどうにも解除できない。いや、魔法をかけた対象を割り出す必要があるのかもしれない。打球が失速するのはボールに魔法がかかっているのか、あるいは選手に支援魔法がかかっているのか。
俺も伊波さんの金属バットを借りてみた。打った瞬間にボールに解除魔法がかかるようにしてみたが同じように打球が失速する。
いろいろ解除魔法してみるのだが、どうもしっくりいかず6回裏にさしかかって1対0。このままではリベンジどころか完全試合をくらいそうな勢いだ。中里さんはイライラを隠さず、伊波さんも能登間さんも謎の凡打に首をかしげる。これ、やばいやつだ。
「沢村、お前昨日熊野と遭遇ったんだってな?なんて言ってたんだ?」
ベンチで山鹿さんに訊かれてはっとする。そうだ、熊野さんが気にしてたのは胆沢の持つ「魔王の欠片」じゃなかったか。これは試す価値があるはず。俺は代打に胆沢を使うように山鹿さんに進言する。
山鹿さんが監督に言うと許可が下りた。山鹿さんは俺に言われたフレーズを使って胆沢を送り出した。
「胆沢、お前、出番なしで神宮終わってもいいのか?あいつらはお前がヒーローになる機会を奪おうとしてるぞ。取り返してこい。自分の権利を。」
胆沢がボックスに立つ。俺でも感じる熱い「瘴気」(笑)。まさか散々苦しめられてきた胆沢の力に頼ることになろうとは。二死走者無しの場面にもかかわらず、熊野さんはタイムを取って九郎坂さんとやりとりしていた。
おー、そういえば胆沢を応援するの初めてかも。魔法の状況を確認するとここで初めて熊野さんの魔法の全容が推測できた。
「結界魔法」だ。
内野から外野のフィールド上空にかけて「遅延魔法」の状態異常が張られていたのだ。これでは打球はみんな死ぬだろう。これは攻守交替のたびに張ったりはずしたりを繰りかえしたのではなく、自分が打席に立つ時だけキャンセルしていたのだろう。そうでないと魔力があっという間に空になるレベルの空間魔法だ。
さらに内野のフィールド、走者の走路となる部分以外にも同じ結界が。バントや内野安打を狙えば打を球殺せたうえに相手の内野守備も遅くなるというわけだ。
おそらく夏の甲子園のサヨナラ失策もこの結界の生み出した結果と考えればすべてがつながる。
それが「魔王の欠片」の発動で変容しようとしているのだ。作人館高校のナインそれぞれに微小な「呪い」がかかる。魔王と言っても「欠片」に過ぎない。だから世界を呪うほどの力はない。しかし、個人レベルの命運を左右される程度には十分に重い呪いなのだ。
俺はリトル時代から、何度もこの呪いを浴びせかけられてきたのだ。今は術式もケントが解析してくれて解呪魔法も使えるようになった。
ただ、これには問題もあって敵味方関係なく呪ってくるのだ。胆沢は「控え」である自分が気にいらないため、「目の上のたん瘤」にあたる中里さんや凪沢にも呪いが波及する。それは解呪しないとやばいので、やつの機嫌によっては俺の使える魔力が消費されてしまうのだ。
胆沢は九郎坂さんの初球のカーブを迷いなく振り抜く。打球は結界をぶち抜きながら飛翔を続けスタンドに突き刺さる。起死回生の同点弾。熊野さんが恨めしそうに俺を見る。瘴気の正体に気づいたようだ。いやいや、最初にしかけたのはあなたの方ですよ。
おそらく、熊野さんが昨日俺と接触を図ったのはこの「呪い」の主を俺と見誤って俺を封じに来たのだろう。いや、胆沢の方は封じてくれて全然かまわなかったのだが。
「ナイバッチ!」
「まだ同点じゃい!」
珍しく俺とハイタッチをかわす胆沢のドヤ顔はいつもと少しちがって見えた。




