謎の霊能者と神通力野球(神宮大会準決勝)
「はい?」
突拍子もない問いに思わず聞き返してしまった。彼はもう一度同じ問いを投げかける。
「あんた異世界の人だろう?」
「すみません。確かあなたは『中二』ではなく『高二』のはずでは?」
俺の問い返しに彼は笑ってから
「なるほど、そう来たか。確かに他言するわけにはいかぬわけか。だが俺の話を少し聞いてもらえんか?」
と聞く。どうしよう、ここで逃げるのも変だし、まともに取り合うのもおかしい。
「あ、はい。」
近くの公園に入る。
「実は俺、霊能者というか、霊的な何かが『見える』んだ。そして、『神通力』を多少使う。」
いったい、この人は俺になにが見えるんだろ。いや、ここは興味を持ったら負けか?
「俺になにか憑いてますかね?あまりそちらの方面は詳しくないので。」
彼によると人間にはだれにでも体内に「気脈」というものがあってその流れがとまると不調や病気の原因となるのだという。彼にはその流れを見ることができ、その流れをとめたり再び流れを通じさせる能力があるというのだ。
「あんたに流れる『気』はこの世界のものとは明らかに違うし、この世界ではない別の世界、あるいは別の次元から供給されているようにしか見えない。」
「そうなんですか?」
やばい、少し動揺した。ちゃんと見えてるクチか。ただ、「見えた」ところで科学的に検証できるものではないし、単なる「中二病患者」の戯言レベルだ。
それよりも何を目的に俺に近づいてきたのか。
「それで熊野さんはなぜ俺にそんな話を?」
「いや、あんたのチームにとても良くない気を感じたんだよ。甲子園で対戦した時から思っていた。あの時はベンチではなく観客席の方に感じたから関係者かどうか判断つかなかったのだが、今回はベンチメンバーからそれを感じるんだ。」
まさかそれが俺だと思ったわけ?
「最初はね。だが会ってみてあんたじゃないことはすぐにわかった。ただあの時、その瘴気はうちに対してではなく、お宅のチームの気を蝕んでいたんだよ。
もし、明日の試合であんたのチームの瘴気がこちらに向かってきたら、俺は神通力を遠慮なく使わせてもらう。それを伝えにきたんだ。」
「そ、そうですか。そんなに悪いものなんですね。」
俺は理解してないフリを通すことにした。心当たりは一つしかない。胆沢の中に眠る「魔王のカケラ」だ。
「なんなら祓っていただいても結構ですよ。」
「いや、そういう力はないのでね。あんたも気を付けた方がいい。あの瘴気は己以外はすべて敵だと思っている。」
あら残念。
準決勝は第一試合。対戦相手は東北地区代表、岩手県の作人館高校。ちなみに県立高校である。
先発は中里さんだ。本来は胆沢の出番だが、決勝の先発を譲ってまでこのリベンジマッチに臨む。青学はアメリカ式の指導なので投球数制限に関しては極めてシビアなのだ。だから今日投げれば中里さんは今後一週間は投球禁止になる。
作人館は守備のチームで九郎坂、熊野のバッテリーを基軸とした堅い守備で耐える。攻撃も二人が基軸で、俊足の九郎坂を熊野のバッティングで帰すというワンパターンしかない。九郎坂も140km/hの速球をテンポ良く投げるが三振を取れる投手ではなく、平均して1,2個しかとっていない。
それでこれまでよく勝ってこれたものだ。スコアを見るとすべて1,2点差の勝利。夏の甲子園もそうだ。ただ、青学に勝った後、熊野さんが体調不良に陥って準々決勝で大敗を喫している。
いろいろと謎の多いチームだ。……試合が始まるまでは。
この試合は夏の甲子園同様こちらが先攻。伊波さんが打ったあたりはレフトフライ。能登間さんは遊撃手正面の凡ゴロ。二人とも首をかしげる。
俺も初球外へのカーブを見送った後のインローへのストレートをとらえる。これは本塁打やろ、という会心の一撃だったがなぜか打球が突然失速して外野フライ。どうなってんの?完全に芯を食ったんだけど。
探査魔法をかけると魔法反応が。そうか、これが熊野さんの言う神通力か。
簡単に言えば熊野さんの「神通力」の野球だったのだ。




