穏やかな?異世界へと転生します、
俺の問いに女神は無表情のまま答えた。
「魔王の討伐《《に》》は成功しました。」
おお、やればできるのね。
「勇者胆沢龍司は魔王討伐後、そのまま魔王を取り込み自らが魔王と化しました。」
じゃ、失敗じゃん。俺のツッコミ程度では女神は眉一つ動かさない。
「だから討伐『に』は成功した、と回答したのです。」
うん、苦しくね?
「あなたは胆沢龍司を恨んでいますか?」
いいや、恨んではいないよ。そう言うやつだと知ってたし。むしろあいつに無用な力を与えた女神の『不見識』の方を恨んでますけど。で、胆沢はまだ魔王やってんの?
「いいえ、次の勇者に討伐され、その魂は封印されました。」
ざまぁ。俺はそれだけで十分だった。ヤツとはもう二度と関わりたくはない。それより気になるのはケントと亜美の魂の行方だ。
するとケントは十数年前に転生し、その世界に俺を転生させるらしい。無論、俺が望めばだ。俺はただちに了承した。そして亜美はまだ異世界で存命らしい。
亜美の寿命が尽き、彼女が望めば俺たちと同じ世界に転生するようだ。転生特典として俺のスキルは進化して「無限の道化師」となりそれを保持したまま転生するそうだ。「はずれスキル」に関心はないけどな。だいたい「無限の道化師」なんて人をどこまでも馬鹿にした名のスキルである。
「実はスキル進化には理由があるのです。」
女神は気まずそうに付け加える。なんと胆沢の魂が封印を脱走して分裂。3000片に散り散りになった彼の魂は各世界の「胆沢」の魂に同化していくかもしれないそうだ。
魔王の持つスキルを「微弱ながら」一つだけ使える存在になるのだという。そして、ケントが待ち、俺がこれから転生する先の「胆沢」にも《《それ》》はいる。
魔王スキル「かかとを掴むもの」である。簡単にいうと他人の足を引っ張る(妨害する)能力だ。気に入らない人間に対して使ってくるのだという。
「それ、俺に対するあなたの嫌がらせですよね。」
この無能な女神め。俺はこの失態に対して転生特典の積み増しを要求した。
女神はしぶしぶ「運」と「魔法防御」の基礎パラメーターをあげることに同意した。これで「回避率」が上がるはずである。
でも俺が転生するのは元の世界に良く似た世界。基本的に魔法がない世界だから《《多分》》穏やかに過ごせるだろうとのこと。お前の多分ほどあてにならんものはない。でも「転生」だから赤ちゃんスタートか⋯⋯。
そんなことを考えながら俺が目をつむるとスーッと意識が遠のいて行った。
⋯⋯で、なぜに俺はここにいる?そしてなぜ幼児に?
気が付くと目の前のテレビ画面にはディズニー映画が流れている。キッチンではママがまな板を包丁でたたく軽快な音を立てていた。火にかけられた鍋から立ついい匂いが俺の鼻に流れ込んでくる。
あれ、涙が出てる。2歳児の俺は泣き出した。ママがそれを聞きつけてやってくる。どうもグズったと思われたようだ。
「健ちゃん眠いの?眠かったねぇ。」
大人って幼児の機嫌が悪いのをなんでも「眠い」のせいにしたがるよな。そう抗議してみたかったが素直にソファに横たえられる。
「パパ帰ってきたらご飯にしようね。」
あ、若いけど俺の実のママだな。これはいわゆる「死に戻り」ってやつだろうか?それにしたって戻り過ぎやろ。少し現況について把握したい。でもさすがは幼児。ほんとに眠いや。
暗いな。ふと目を開けるとリビングは仄暗くキッチンの灯りだけがついている。すっかり夜。ドアをガチャガチャと解錠する音がした。パパが帰って来たのだ。
暗がりの中起き上がる。パパをお迎えに行った方がいいだろう。あれ、バランスが悪い。よろけた俺はテーブルに思い切り額をぶつける。痛い!俺は思わずおでこに手を当て「自動回復」を発動する。すると痛みは徐々に引いていった。おぉ、記憶は真実だったのか。魔法が使えるやんけ!でもこの魔法ってなんか使い途があるのだろうか。
俺の頭をぶつけた音を聞きつけパパ参上。俺を抱き上げる。
「健ちゃん大丈夫?痛かったねー。よしよし、痛いの痛いの飛んでけー!」
俺はパパに頬擦りされながらまだ見ぬあすへと思いを馳せていた。ちょっとパパ、あんた朝剃ったきりだから髭が痛いわ!
本日の更新はここまで。また明日以降よろしくお願いいたします。カクヨムで「万年補欠の下克上」で検索すれば現在までの投稿を読めると思います。
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