進化したトルネ―ドVS進化した俺のスキル(秋季関東大会2回戦)
蒲生大介選手は2年前のシニアの夏の選手権の初戦で当たっている。ただその頃は奈良県のチームだったので野球留学なのだろう。当時からすでにマッチョな体格だったがさらにパワーアップしていた。
フォークボールである。
それもかなりの落差がある。トルネード投法で握りがなかなか見えないうえにこんな球を投げられてはたまらない。基本的にストレートとフォークしか投げてこないのだが捕手の好リードもあって、山があたれば打てるがその予測すら外されてしまう。
例外は住居さんだった。いきなりソロ本塁打。フォークとストレートの違いを聞くと
「ストレートがズンでフォークがグンだな。」
という迷回答。ようはボールとバットの衝突「事故」だった模様。ただの偶然じゃねえか。
心の中で毒づく。
「そんなんお前にしかわからん。」
伊波さんもあきれ顔だ。「悪球打ち」の主将にはわからないですか?と尋ねれば
「『悪球』はボールになる球な、ゾーンに投げ込まれたら打ちづらいわ。」
とやはり使えねーお言葉。
「フォームで見分けがつけばいいんだが、ビデオ撮影なんてできないし、分析している暇もない。とにかくこの1点を守らないとな。」
山鹿さんが半分あきらめている。山鹿さんも速球やチェンジアップなどの緩急の差には強いんだけど。即応するのは難しいようだ。
「何度か定期的に対戦する相手ならなんとかできそうだけど。」
見分ける?鑑定スキルでなんとかならんか。魔法で脳内に動画を残し、脳内で違いを鑑定できないだろうか。異世界では魔物の村や城の偵察をした時に使った手法だ。
「混乱魔法」という状態異常魔法の応用だ。混乱に使う「幻覚魔法」の成分を術式から取り出してビデオテープ(おっと、こんなところで昭和感が)の代わりに使用。鑑定して入口やら弱点やらを鑑定魔法で見破るのだ。俺の鑑定スキルは低級だが、思考加速でスローモーションにした2つの動画の相違点くらいは鑑定できるはず。
俺は次の打席8球放らせて三振したがデータは集まった。さて、鑑定してみよう。間違い探しを魔法ですると。な……なるほど。
「ストレートよりフォークの時の方がリリースポイントがやや高くなります。指で挟んでる分、指から抜けるようにボールが離れるためストレートの時よりボールが高い所から出てくるように見えるんでしょうね。」
俺の視たてにみなうなずく。信じる信じないよりもやってみるしかないのだ。
凪沢の丁寧な投球でなんとか1-0でリードしている。この渡り綱を渡るような試合をものにするためにも加点は不可欠だ。
7回、そろそろ蒲生さんに疲れが出始めたのもあるが、さすがは天才集団。能登間さんからの4連打を含む打者一巡で5点を挙げ、一気にゲームを決める。8回1死で四球を連発してさらに適時打を浴びて1点返されたところで凪沢から俺にスイッチ。1回2/3をきっちりと無失点で抑えて甲府学院を降した。6対1だった。
試合後、東郷監督は連投疲れの蒲生のフォークボールの精度が落ちたから打てたと説明していた。ま、蒲生さんの弱点はうちのチームだけが知っていればいいのだ。
確かにトルネード投法というダイナミックな投球フォームは体力の消耗が激しい。聞いた記者たちも納得できたことだろう。
今回の勝利には一つの意味がある。それは我が青学がベスト4に進出したこと。つまり翌春の選抜大会、甲子園の出場をほぼ決めたということ。特に俺たち1年にとっては感慨深いものがあった。
まあ、先輩たちにとってはただの通過点にしか過ぎないかもだけど。ずっと補欠で過ごした前世を経験した俺にとっては夢のような出来事であった。
夕食後、宿舎のホテルでささやかな祝賀会が行われた。
「甲子園出場がほぼ決定しました。これは自動的に出場できるというわけではなく、ここで思い上がり、考え違いをして飲酒、喫煙、万引きなどの非行に走れば容易に出場が取り消されることを忘れないように。
今から俺たちは生活全体が野球であると考え、ルールは絶対であることを肝に銘じ、戦っていこう。油断は禁物だ。」
伊波さんが檄を飛ばした。おお、まるで主将のようではないか!……いや、主将だった。
明日は雨天順延に備えた予備日であるために休日であった。学生であるため調整程度の練習があるだけで、宿舎で学校から出された課題の方をしなければならないのだ。近隣の公立高校のご好意でグラウンドと空き教室を貸してもらった。
準決勝は千葉代表の木更津誠和高である。




