高校生離れしたルーキー(都市対抗野球1回戦)
わが青学が負けた一方、亜美の彩栄学院高は高校女子硬式野球全国選手権大会で優勝を飾る。それまで3年連続で鹿児島の上村学園高に3年連続決勝で降されて準優勝で終わっていたが、今年は亜美がいた。
準決勝で上村学園高校を降し、決勝では同じ埼玉県勢である立花正栄高校に勝って全国を制覇したのだ。
「おめでとう。すごすぎる。」
とメールすると
「ありがとう。まあ女子相手ならこんなもんでしょう。」
最近は男子部の練習の方にも参加しているそうです。物足りないですか、そうですか。
都市対抗野球が開幕する。
開会式と第一試合が25日の金曜日。決勝戦が9月5日の火曜までの開催だ。ドーム球場は空調が効いてていい。
初戦は結構後ろの方で29日だ。
当日、ホームの球場からバスで東京ドームへ。アップをしていると突然声をかけられる。そこのいたのはフロリダで会った記者の小原由香さんだった。一緒にいた男性を紹介される。
「ヤーナーズの極東スカウトをやってる木田です。まあスカウトといっても駆け出しなんだけどね。ケリーが徹底的にきみにことをマークしろってうるさいんだ。青学の選手だって聞いたのに甲子園にきみがいなくてびっくりしたよ。」
ああ、あのごついおばちゃんのお仲間か。
「事情があって都市対抗が終わったら野球部に復帰する予定です。」
「でも驚いたわ。高校1年生でいきなり都市対抗だなんて。今日はケリーにあなたに彼の紹介を頼まれていたから来ただけだったんだけど、面白そうだから取材していくわね。」
「あ、はい。」
甲子園は日本における「ショウケース」だからな。当然いろいろとみて来たんだろう。そしてここは社会人野球の「ショウケース」だ。
「健ちゃん、さっきの人たちだれ?」
先発の増田さんに聞かれる。
「ヤーナーズのスカウトの人とネットメディア記者の人ですよ。大人の祭典に高校生が混じってんのが珍しいんじゃないですか?」
1回戦の相手は東海第3代表の恩田自動車鈴鹿。俺は3番指名打者での出場。
試合はいきなり初回から1死二塁でチャンスが回ってくる。ゴロを打たせようという低めの球だったがしっかりと右中間に打ち返せた。適時2塁打で1点先制。まあ4番の大窪さんは3塁強襲の内野安打だったため俺は塁から動けず。結局1点どまり。
3回には2点を返され逆転されてしまい、こちらが追う展開に。しかし6回、四球で出た俺。すかさず盗塁してチャンスを広げる。大窪さんも四球を選ぶと5番阪村さんがレフト線へ適時打。同点においつく。
8回には大窪さんにも適時打が出て再逆転するもその裏、四球と失策がらみでまたもや同点。俺もリリーフの準備を始める。そして同点のまま延長突入。
延長10回表、二死一塁。アッパースイング気味の俺をインハイで攻めたいのだろうが対応できるんだよね。アカデミー仕込みをなめてもらっては困る。これがライトスタンドに2ラン本塁打。
その裏、電光掲示板の俺の【DH】表示が【投】に代わる。打者3人できっちり終わらせて試合終了。9回から登板した中村さんに勝ちがついた。
やれやれと思ったらヒーローインタビュー。お立ち台に4番の大窪さんと呼ばれてしまった。大窪さん4安打だったんだ。
大窪さんのあと俺にマイクがふられる。
「今日決勝2ランと見事なリリーフ、沢村健選手でーす。」
大歓声。これは結構気持ちいいぞ。
「若そうに見えますがほんとに若いんですよね。おいくつですか?」
「今月16歳になりました。」
観客席どよめく。身長がインタビュアーのお姉さんよりずっと高いからそう見えなくて仕方ない。もう本塁打なんてどうでもいいような反応。真面目なお姉さん相手にボケ倒せなかった……。スリーサイズでも言えばよかったんだが。
次の試合が2日後の9月1日なのでいったん帰宅した。なんか去年と今年、夏休みがなかったんじゃね?
8/31、亜美が自宅に来てくれた。夜には亜美パパに寮に送ってもらうんだそう。そしてW杯の台湾と選手権のお土産を持ってきてくれたのだった。このお家デートが夏の最後の思いでか……。
W杯の話を聞いたり写真を見せてもらったりしていると自然に体が熱くなる。日本もいいけど海外は楽しかった。
「健は小学生の頃から英語ペラペラだよね。ALTの先生がびっくりしてたもん。将来はメジャーリーグとか目指すの?」
「案外性格的には海外向きなんだよね。神経が細かいのは野球だけであとは全くこだわりがないから。」
「お兄はこだわりがないんじゃなくてズボラなだけじゃん。」
脇から妹のツッコミが入る。もし俺がメジャーリーグに行ったらついて来てくれんのかなぁ、なんちゃって……とはいえず、
「亜美は高校卒業したらどうするの?」
にとどめる。
「わたし?わたしはねぇ……。」




