「夏の扉を開けて」
7月最初に亜美が正式に女子野球日本代表の正規メンバーの20人に選ばれたことが発表された。
背番号は24。奇しくも今の俺と同じ。
「日本代表確定おめでとう。怪我しないようがんばって。台湾は魯肉飯が美味しいらしいよ。ここだけの話けど台湾に台湾ラーメンはないらしいです。」とメールを送る。
ちなみに寮の共用パソコンに送っているので俺は「沢村香織」名義になっている。だから1人称は「わたし」。返信が来た。
「なんと背番号は香織と同じのにしてもらったよ。一緒にがんばろうね。去年の春に二人で誓ったことを覚えているかな?わたしは果たせたよ。謹慎あと2か月。よく頑張ったね。実は台湾ラーメンの話は知ってた。香織のことそれでだまそうと思ったのに、残念。
まだ合宿でチーム内競争を勝ち抜かないといけないけど、気を引き締めてがんばります。」
おおおおお。なんかテンション上がって来たあああああ。
都市対抗野球の本戦、東京ドームに行くためにはまず1次予選である埼玉大会で代表枠3に入り、さらに最終予選の南関東大会での代表枠3にはいらなければならないのだ。ただ県予選は産業市民あわせて16チーム。高校野球よりは難しくなさそうにも思えるが、恩田技研、東京通運の別格の壁はあまりに高い。それにつづく第3の座を争う形だ。
1回戦の相手はくしくも俺が加入する直前のクラブ選手権の予選で負けたチームが相手だった。全さいたま市大宮。「全」は大宮の方にかかる。同じさいたま市を拠点とする全さいたま市浦和もクラブチームでは全国大会で優勝経験もある名門なのだ。
「今回は絶対にリベンジキメたる!」
エースの新井さん、はりきってますね。
「企業チームに負けるのは仕方ないけど市民相手はやっぱ負けたくないね。」
などと言いつつロッカールームに入る前に対戦相手の選手たちとなごやかに談笑してる。ここらへんはさすがに大人。闘志は滾らせても礼儀は欠かしません。
試合に入るとみな真剣そのもの。やはりオンとオフの切り替えがしっかりしているのも大人だなぁ。
俺は今日は3番中堅手で出場。初回2死無走者。低めのいい球をすくいあげる。右中間に社会人1号本塁打。「社会人」野球だけにまさに「名刺代わり」の一発である。
戻ってくると清水さんがご機嫌そうだった。
「すごいなぁ。外国人並みの当たりだな。」
「ありがとうございます。」
でもアメリカじゃもっとスイングの速いやつなんていくらでもいるからなぁ。この初回の1点が効き、チームのみんなも落ち着いてプレーできたのだろう。8回まで4対2。9回に相手の上位打線から始まるところで俺に投手交代。
まさか初戦でいきなり140km/h超えの左腕が登板するのは想定外だったのかあっけなく三者凡退、勝利で終わる。
「ああ、今日祝勝会やりてえ!」
勝ち投手の新井さんはゴキゲンであった。
「明日も試合がありますから。我慢しましょう。」
「今日はビールが絶対うまいな。しょうがない、家で一人で飲むか。健ちゃんこういう時の酒はうまいんだぜ。大人になったらわかるだろうけど。」
いやあ異世界ではたまに飲んでましたよ。蜂蜜酒とかリンゴ酒がメインでしたけど……とは言えないけど。あぁ燕麦酒もあったな。ただホップで味付けした大麦酒がなかった世界なんで冒険が終わったらそれでみんなで一儲けしようぜ、って言ってたっけ。
翌日、1回戦で負けたチームの敗者復活戦の1回戦と、勝ち上がったチーム同士の2回戦がある。
俺たちが当たったのはレガリアスという所沢の新鋭のクラブチーム。
「あんた高校生?」
そう相手選手に尋ねられる。尋ねた顔も幼かった。
「はい。1年です。あなたも?」
「俺は高橋。実は俺も高校生。2年なんだ。」
高橋さんはリトルから中学の軟式野球部に転じたが顧問の教師とそりがあわず、試合に出してもらえなかったそうだ。無駄に長い練習時間を嫌った結果だそうだ。それで高校に進学したものの野球部には入らず、今のチームが高校生にも門戸を開いているのを聞いて入団したのだそうだ。あ、俺ですか?
「自分はちょっとした問題に巻き込まれて謹慎中なんです。8月まで野球勘がなくならないようにここにお世話になってます。」
ちなみに関東で「自分」は1人称代名詞である。
試合は清水さんが先発。俺は2巡目の打席で2点適時打二塁打。
清水さんも好投したものの最終回1死までいって三塁二塁の大ピンチ。しかもここからクリーンアップ。
「健ちゃん、ここは任せた。」
「はい、任されました。」
今日は右で登板する。
「




