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破綻していくチームプレー

「街にでも行ったのでは?」

俺は夜間の作業が忙しすぎて夜の街に行ったことはなかった。


 この世界でコインや金属はモンスターから取れる。だからモンスターの死体を解体して食糧、金属、硬貨にして街のギルドや商店と取引する。残りの金は分配する。若いみんなはそれを夜な夜な街で使ってしまうのだ。


 いわゆる「飲酒(のむ)博打(うつ)買春(かう)」である。あらかじめ断っておくが、昭和時代ではそれほど白眼視されなかったのである。


 ただ高潔な騎士であるケントはそれを不快に思っていたので度々、胆沢と意見がぶつかっていたのだ。監督の村野先生も、もはや自分たちより強くなってしまった生徒たちに文句もつけづらいようだった。


 当初はケントが圧倒的に強かったため渋々でもしたがっていたが、戦闘を重ねて経験を積みケントよりも強くなった今ではあからさまに彼を侮るようになってしまったのだ。


 ケントの前世は第二次大戦中ヨーロッパ戦線に赴いた米軍兵士であった。彼はフランスの地でドイツ軍を相手に戦死し、この世界に転移したのだという。だから日系人部隊の勇猛果敢さはよく知っていた。


「君たちはサムライの国の子供たちだったはずだ。確かに初めはそうだったよ。でも強くなるに連れ、謙虚さと自制心を失っている。魔王は君たちの利己心に訴えかけてくる。多くの勇者たちが挑んで行ったが魔王に取り込まれたり、魔王を倒してもそれに立って変わって自ら魔王になってしまう者が絶えない。私は心配なんだ。」


 確かにあの胆沢ならやりかねないだろうな。みんなはだんだんケントの指導を受けたがらなくなっていた。彼より弱いのはもはや俺くらいだ。ただどんなに戦闘力が上がろうと俺たちの人間としての経験値が上がったわけじゃない。だから彼から学ぶべきことはまだまだあるんだ。


「俺はケントを支持するよ。侍も野球選手もセルフコントロールは大切だからね。」

そういうとケントは俺を抱きしめる。

「健。君は転生したら次こそプロ野球選手になりたい、って言ってたね。君は私が転生する世界に転生()るといい。私は君だけのための先導者(チューター)になろう。」


 これが俺とケントの約束だった。そこに亜美が「じゃあ私は?」ってヤキモチ全開で乱入する。ケントは彼女をからかって「亜美も男に生まれて健と一緒にプロを目指すといい」と返し、俺がそれは名案だ、とかぶせるので


「あたし、プロ野球選手の妻になって『食っちゃ寝』人生がご希望なんですけど。」

と怒り出すまでがお約束(デフォルト)であった。


 しかし胆沢を始め皆の態度は日に日に悪くなっていく。やがてチームの必要経費にまで手をつけようとし始める。もう魔王の重臣である四天王の城の攻略が始まったというのにこの有り様だ。


 亜美が拒むと胆沢は酒臭い息を吐きながら言った。

「じゃあお前の身体で俺を満足させてくれんのかよ?」

あまりの言葉に立ち尽くす亜美の手から金をふんだくると胆沢は高笑いする。

「今のは冗談だよ。俺はおっぱいが大きい女が好きなんだ。」


俺は思わずかっとなって胆沢に掴みかかるが簡単に組み伏せられてしまった。

「冗談を真に受けんなよ。道化師(ピエロ)風情が。お笑い要員はそれなりに楽しませろよ。リアクション芸でな。」


 女神の人選ミスも甚だしい。正義を振りかざす勇者も鬱陶(うっとう)しいが自分の力に溺れる勇者はもっとたちが悪い。これでいいのだろうか?


 俺の不安は的中する。その二日後の晩、「勇者たち」の不在を()いて四天王の手下に襲われ女子マネ二人を(さら)われてしまったのだ。残っていた戦闘員は俺とケントだけ。もはやなす術もなかった。






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