ショウケースで自分の力を見せつけろ!
「ショウケース」とは、全米各地から野球エリートの高校生を集めて大学やメジャーリーグのスカウトの前でプレーすると言ういわゆるトライアウトだ。
毎年7月くらいから全米の10数箇所で行われる。サマーリーグと並ぶいわゆるアメリカの「甲子園」的イベントと言える。これらに出場してスカウトの目に止まることがアメリカの高校生プレーヤーの目標とも言える。
アリゾナ州で行われるショウケースイベントに出るアカデミーのチームに欠員ができたので俺にお鉢が回って来たのだ。うん、アリゾナまで飛行機代とホテル代、そして参加費⋯⋯、ええい、借金追加だ!
ちなみにアカデミーの「欠員」というのは最初から仕組まれていて、日本や南高麗から来た割と金のある個人挑戦者に枠を売るためにわざと3枠くらい空けておくらしい。
今回俺に「ただ」でくれるのは理事長の裁量だったようだ。
「アリゾナ・フォール・クラシック」と呼ばれるトライアウトの会場はアリゾナ州立大学のグラウンドだ。もう7月から始まったトライアウトで有名どころはあらかた「売約済み」になっているようだがそれでも強そうな選手でいっぱいだ。
逆に、高校野球を終えた日本の高校生も何人か参加していた。アカデミーのチームには俺のほかに日本人と南高麗人の高校生が入っていた。
「あんた英語できるの?」
城崎という高校3年生だ。どうやら俺を高校生だと思っているようだ。まあ、普通中学生が飛び級でこんなところに来ているとは思うまい。
「ええ。独学ですけど。ディズニー映画で。」
俺が答えると冗談だと思ったらしくオオウケだった。いや、事実なんですけどね。
南高麗人高校生はボビー・キムと名乗った。アメリカ在住ですか?と聞くと、そうではなく南高麗人は英語の授業の最初に自分の英語名を決めるらしい。ちなみに日本以外の東アジアでは良くある習慣らしく俺や城崎さんに「英語ネーム」が無いことが不思議そうだ。
「本名がケンなのでそのまま英語でも通じるんで。」
ちなみに「健」は高麗語読みでは「ゴン」になるそうだ。ちょっといやだ。少年院にいるゴンザ君、ゴンザをネタにして弄ってごめんな。俺もゴン仲間だったぜ。ボビーさんは本名の方は言いたく無さそうなのでまあ触れないでおこう。
城崎さんに高校を聞かれたので青学だと答えるとびっくりしていた。
「マジで?夏の甲子園優勝校じゃん!健はベンチ入れたの?」
と聞くので正直に
「俺、夏までシニアにいたんでまだ中等部です。」
と答えてしまった。
「3個下?」
そこから二人の態度が突然偉そうに。東アジアの年功序列文化は根強いんだよな。ただ、俺もあまりアジア人同士でつるみたくはないんだけど、通訳が必要になると俺に依存してくる。
「悪い、健。通訳頼むわ。」
いや、英語覚えましょうよ。知ってる単語並べたら大抵通じますって。あー、電子辞書に頼りますか、そうですか。
初日の日中で短距離走と打撃が選考対象だ。選考が終わる頃には大学のスカウトさんたちがこちらをガン見し始めていた。
「きみ、外野手と投手で登録されているね?」
「はい、まだ『線が細い』から本場の内野は無理だとコーチに言われましたので。」
「打撃がいいね。コンパクトで力強い。ヘッドスピードも速いしフォロースルーまでしっかりと振れているね。」
「ありがとうございます。」
木製バットで柵越え連発したからなぁ。魔法がいい感じに効いているとは言えないけど。
トライアウト成績優秀者だけで行われる夕方の試合にも出場した。
最初の2回を投手、その後を指名打者で。
トライアウトなのでストライクゾーンにしか投げない。どんどん投げ込んでどんどん打つ。何点取られるんだ。城崎さんは捕手だったらしく、俺とバッテリーを組むらしい。というか英語が不自由なので俺としか組めんのだな、これが。
「持ち球は?」
「直球だけです。ストライクしか投げないんでよろしく。」
ちなみに通常回転とジャイロ回転を投げわけます、というのは伏せておいた。
1回は左で2回は右で投げる。結果は2三振、1飛球、内野ゴロ3。指先エンハンスの威力がここで発揮されたのだ。個人敵には魔法よりも「ピアノ」で鍛えたおかげで魔法の効果が格段に上がったと推測している。たとえ出涸らしとは言えアメリカの野球エリートにも俺の投球が通用しちゃうと、もう本気で二刀流目指しちゃおうかなぁ、と思った転換点でもあった。
後半の打撃は2安打1本塁打。実戦で「野球魔法」をデビューさせたが結果はまずまずなのでは。
明日からはアカデミーのチームでトーナメントである。
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