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向き合う二人とすれ違う仲間たち

 今夜も町へ繰り出す皆を送り出すと作業が待っていた。それをたんたんとこなしていると酒瓶を持ったケントか、やっと仕事が一段落ついた亜美か、あるいは二人が俺のところにやってくる。


 今夜は亜美だけだった。ケントはすっかり酔いつぶれてテントでいびきをかいていたらしい。


「ねえ、健は街へは行かないの?」

彼女はケントにひっぱられたのか、いつの間にか俺のことを「サワくん」ではなく「健」と呼ぶようになっていた。


 俺は月夜に浮かぶ亜美の表情にドギマギしてしまった。日焼けし過ぎて気がつかなかった、いや気がつかないフリをしていたが彼女はかなりの美少女なのだ。

俺が返答に困っていると彼女はさらに追い討ちをかける。

「だって健ってこの世界の人みたいな子が好きでしょ?ほらオリンピックでも東欧の女子体操選手とか好きだったじゃん。」


 買ってまでというのはどうなのかな。でも女の子二人だけでキャンプを残して置くことは出来ないよ。日本みたいに治安がいいわけじゃないし。俺の答えに満足したのか亜美はさらに問いを重ねる。

「ねえ、健はこの旅が終わったらどうする?」


 どうって言われても恐らく善行を積んだ見返りに良い条件で別の世界に転生するだけなんじゃないの。亜美は俺にしな(しなだ)れかかった。

「もしよかったらさ、平和になったさこの世界でもう少し一緒にいられないかな?……できれば二人きりで。」

いや、俺は単独で冒険者になれるスキルはないぞ。ついでに言うとお前もな。


 そこまで言ってようやく鈍チンな俺は亜美の気持ちに気がついた。亜美はニッコリ笑って言った。

「冒険者じゃなくてもいいじゃん。私のスキル使って商人とかどう?それだったらずっと一緒にいられるじゃん。」


 俺と亜美はリトルリーグの時に出会った。ショートカットで真っ黒に日焼けしていたからずっと男の子だと思っていた。サッパリした性格のせいもあるが女子を感じさせない雰囲気があったのだ。だから女だと分かったあとも男同士の友達みたいな距離感(スタンス)の付き合いから一歩も進めなかった。


 変化が生じたのは思春期からで、彼女の急に背が伸びてその身体が丸みを帯び始めると気恥ずかしさが勝って近づき難くなっていたのだ。それでもお構いなしに彼女はグイグイ近づいて来て、「小学生で私の野球は終わりなんだ」と俺に告げた。今の時代と違って女子野球がそれほどメジャーではなかったのだ。


「ソフトボールに転向すればいいじゃん。先輩から誘われてんだろ?」

「私は野球が好きなのっ。」


「だったらマネジャーでもすればいいじゃん。お前なら間違いなく最強のマネジャーになれんじゃね?そしたら俺たちずっと一緒にいられんじゃん。」

 俺のたわいもない提案。それを彼女は「遠回し」な告白と捉えていたらしい。⋯⋯そうとう遠いぞ。そう、彼女はあの「遠回し」な告白を今、返して来たのだ。


 「じゃあ俺は冒険者相手に『付与魔法(エンチャント)屋』でもやるか?ケントと奥さんも誘うか。彼は今回の任務で勇退らしいし。」

俺がそう答えると彼女は俺の手を握って嬉しそうに微笑む。俺はドキドキしすぎて倒れそうだ。


「俺なんかのどこがいいわけ?」

俺が照れ臭そうに聞くと彼女は俺の首に腕を回して肩を組む。子供の頃よくやったように。あの頃は胆沢も一緒だった。

「力を持っても変わらないトコかな。それとケントさんへの態度。⋯⋯あと女遊びもしないしね。」


 まあ人が変わってしまうほど強い「(スキル)」をもらってはいないからだけどな。俺は彼女に自分の頬を寄せた。子供の頃と同じだが全く異なった意味を持つ仕草。俺たちは互いをパートナーと認めたのだ。


 確かにここ二年近い異世界生活を加えても13年の付き合い。君がこんなに近くにいた俺の「青い鳥」だったんだな。ただこの一言は口にすると強烈にキモいのでやめておいた。いつか二人がジジババになったら言ってやるよ。


そこに眠っていたはずのケントが入ってくる。

「健、胆沢(リュージ)がいないのだが、どこに行ったのだ?」 

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