「あさきゆめみしゑひもせす」(リトルシニア選抜大会決勝)
決勝の相手は横浜戸塚である。母方の祖父母の家が隣の泉区にあるので俺的には親近感がある。
「へえ、山鹿さん抜けたのに頑張ったじゃん。」
別に聞こえよがしに言っているわけでない純粋な感想なんだろうが胆沢が早速頭にきている。どうどう。
絶対的エースの左腕雪村奏人を中心に守備が固くて攻撃力もある完成されたチームだ。4試合で得点が17に対し失点はわずかに3。チーム防御率は1点を割る。
下馬評通り投手力の良いチームが春は強いのだ。前の3位決定戦が乱打戦となり40分ほど開始時刻は遅れたが天候にも恵まれた。
先発は凪沢。さあ丁寧に行こう。と思った瞬間のセーフティバント。俺の出足が遅れる。うぅ。失策はつかないけど、さばけないほどではなかった。これをあしがかりに盗塁、犠打、犠牲フライで一点をもぎとられる。
取られたら取り返すまで。と思いきや堅守。俺のセンターに抜けるかというあたりを二塁手の鮮やかなダイビングキャッチで抑えられてしまう。敵ながらあっぱれ。今日は相手投手が左腕のため右打ちなのでどうしても左打席に比べるとワンテンポ走塁が遅れてしまう。
おそらく1点とって俺という打者を抑えれば勝てるという算段なのだろう。凪沢も立ち直ってヒットを許さず試合が動いたのは4回。今日は一番に入った小囃子が三塁強襲の意地の内野安打で出塁。槍木が送って俺。ほぼ敬遠ともいえる四球。しかし、ここで燃えた胆沢。つまりながらも左翼前に落とす。小囃子の好走塁で一気に本塁を陥れ同点。
胆沢のすげぇドヤ顔。ただし相手も守備のチーム。こちらの攻撃も続かず追加点はなし。
5回6回両チームともに得点なく最終回の7回へ。最終回、右翼の安武が四球で出る。二死一塁。9番凪沢に代打。ここで出たのがなんと帯刀。
俺はブルペンに入ってタイブレークに備えて正捕手の祐天寺を座らせて投球練習をはじめる。その時わっと歓声が上がる。乃木監督の「おーし」という雄叫びが聞こえた。
なんとサヨナラ2ラン。しかも初打席で。こいつら持ってんなぁとしか言いようがない。
「試合終了」が宣告されると礼を交わし健闘を称えあう。
「夏は負けませんよ。」
「こちらこそ。」
すぐに表彰式が始まる。優勝旗が再び俺たちのもとに帰ってきたのだ。
俺は個人としては最優秀選手賞とベストナインを受賞した。
胆沢は優秀選手賞。小囃子と祐天寺がベストナインだった。
ちなみに帰りが一緒なのは新幹線で東京駅まで。そこで解散になる。なにしろそこから春休みが始まるからだ。今日は3/31。明日から3年生になる。父親も翌日から仕事なので家族も帰宅。こうして家族旅行もかねた「センバツ」が終わりを告げたのだ。
「おめでとう。」
新幹線で監督から返された携帯をいじると亜美からメッセージが入っていた。
「ありがとう。」
「先輩、メールですか?」
俺がニヤ付きながらメールをしていると押川につっこまれる。
「押川邪魔すんな。彼女様との愛の時間だぞ。」
帯刀につっこまれると押川が驚いたように目を見開く。
「ええっ?先輩彼女いるんですか?だめですよ。私というものがありながら!マネージャー以外との恋愛は禁止ですよ。」
押川の謎理論に安武も笑いを噴き出す。
「むしろマネージャーと恋愛禁止だろうが。」
「もう、あたしのハーレムを踏み荒らすのはやめてください。」
「誰がお前のハーレム要員だ。」
俺も思わずツッコミをいれてしまった。
「私の言うこときけないなら携帯没収しますよ。スーパ一ひとし君なみにボッシュートです!プロ野球選手の嫁の座は誰にも渡しません!」
いやいや、俺たちはまだまだその域まで達してはいないのよ。俺は甲子園に向けた最終序章、夏の全国選手権までどう自分を強化すべきか、考えているうちに眠りこんでしまっていた。
覚えてはいないが良い夢を見たような気がした。
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