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背中を追うものと背中に負うものと(リトルシニア選抜大会準々決勝)

 ただ相手チームの中心選手は「留学生」でも「傭兵」でもない地元出の選手。不二太陽(ふじたいよう)というエースで4番だ。学年は俺たちと同じ。恵まれた体躯、泰然自若(たいぜんじじゃく)とした(たたず)まいには山鹿さん的なオーラがある。速球派でコントロールもよく球威もある。


 彼は打者としても勝負強く、初回からいきなり凪沢(なぎ)から適時打(タイムリー)を放つ。チームは出塁したら、送って返すという基本に極めて忠実(オーソドックス)な作戦スタイルだ。


 気づけば5回には不二にさらに本塁打もでて3対0と劣勢に立たされていた。残り2回である。一方こちらは3安打だけ。5回裏は4番胆沢から。ネクストサークルへ向かう小囃子(ミッツ)が俺にブルペンで帯刀(ワッキー)相手に軽く肩を作っている俺に尋ねる。


沢村先輩(ケンさん)、今日は亜美さんは応援に来てますか?」

「多分な。」

「よっしゃー!」

変な気合いをいれつつ小走りに向かっていった。


 胆沢の渾身の打球だが投直(ピッチャーライナー)に倒れる。その後の小囃子(ミッツ)は完璧に不二の球を捕らえる。なんとレフトスタンドへの本塁打。まあ世界チャンプに「なんと」というのも失礼だが。続く古城(コジョ)倒れ、7番の安武(トラ)もフェンス直撃の二塁打を放つ。どうも不二の球に適応(アジャスト)してきたようだ。


 うん、こうやってみんな一試合ごとに成長していくんだよなぁ。次々に後輩に抜き去られていった前世(かつて)の苦い記憶が脳裏を(よぎ)る。背中に実績を負う俺たち。その背中を追う後輩たち。先輩たちの度肝を抜いてやった1年後には後輩にそれをやられる。俺も負けてはいられない。


 凪沢は6回は無失点でしのぎ打順は一番から。一番槍木(ウッキー)は魂のセーフティバントで出塁。能登間先輩(カズさん)直伝のバントだ。


 初回から飛ばしてきたのだろうか。投手の不二の呼吸が荒い。二番小峠(ウトゲ)は送りバント成功させ1死二塁でクリーンアップ。俺との勝負は避けるかな。一球見送ると外角低めの直球(ストレート)。ストライクがコールされる。球威(たま)はまだ死んではいない。俺は今日2凡退だったから勝負をかけてきそうだ。


 1B1Sからの3球目、外角低めにチェンジアップ!身体は加速魔法(ヘイスト)で対応できる。ボールがバットの芯を食った瞬間に発動する一撃魔法(クリティカル)。しっかりフォロースルーまで振り抜くと打球は低い弾道を描く。走者もスタートに備えてボールの行方を目で追う。低すぎたか?いや、右翼手(ライト)は中間守備だったため懸命にダッシュするがボールはライトフェンスをぎりぎり超えた。


 同点2ラン。これで4試合連発。完全に復活が証明できた。

 不二は背負うランナーがいなくなってセットアップからワインドアップに戻り胆沢と小囃子(ミッツ)を斬って取って意地を示した。


 7回は俺がリリーフに出て3者連続ゴロに打ち取る。緊迫した場面でなければ安武(トラ)に投げさせてもいいな。エース2枚が盤石なのはいいがリリーフが俺一人なのも心(もと)ないしな。


 7回裏、またもや1年生が仕事をする。先頭打者の安武(トラ)がサヨナラ本塁打を打ったのだ。すでに公式戦で何本か打っているけど大一番で打ってしまうとは。


 俺たち上級生がそろって「兜の緒を締めた」試合になった。


 と言う「いい話」を亜美にもしようと思っていたのだが、おまいらなぜここにいる。

「あれ?俺、母親の実家が大阪だって言っていませんでしたっけ?」

「親父さんの実家が新潟だという話は聞いた覚えはあるがな、だいたい、お前少しも大阪訛りないじゃん。」

関西ティーゲルスファン御用達(ごようたし)の居酒屋「虎吉」でご飯をいただく。そこが安武(トラ)のお母さんの実家なのだ。おかげ様で格安で晩御飯をいただいています。


 根っからの巨人(ギガンテス)党の親父は虎党に囲まれ肩身が狭そうだ。家事鉄人の母親はなぜか厨房を手伝い、亜美は美咲と安武(トラ)の妹の夏南(かなん)ちゃんの遊び相手をしている。 


 息子の応援をかねて帰省している安武(トラ)のお母さんは女優さんかと見紛うばかりのすごい美人である。

「息子がいつもお世話になっております。息子は山鹿さんに憧れて青学に行ったんですけど、最近は沢村先輩(さん)が凄い凄い、ってずっと言ってましてねぇ。」

母ちゃん(おかん)、はずいこと言わんといて!」

うぷぷ、可愛い後輩め。


「大将!今日のアジフライめっちゃうまいで!油かえたんか?」

お客さんが料理に驚嘆の声をあげる。

「ちゃうねん。今日の助っ人が揚げ物の達人やねん。」

大将のおじいちゃんもうちの母親の揚げ物チート能力に舌をまく。母は新婚当時、新居に来襲した姑と小姑を揚げ物でぐぬぬ、とさせて「あ、……油が高級なのね、きっと。」と黙らせたあげく三日で3kg体重を増やさせて父の実家へとつっかえした剛の者なのである。


「奥さん、大阪に永住してうちに就職しませんか?」

おいおい爺ちゃん、目がマジなんだけど。





 



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