武闘派のゴンザくん。(リトルシニア選抜大会1回戦)
「気をつけろよ。ヤツは左殺しらしい。」
祐天寺が俺に言った。
「へえ、そうなんだ。違う意味でボッコボコにしてそうだけどな。」
「いや、あいつマジでキレるとヤバいぞ。前は東京のリトルにいたんだけど暴力沙汰を起こして石川の親戚に預けられたくらいだからな。」
凪沢が補足する。どうにも粗暴な性格で喧嘩早く、親も反社の方らしく事件も金と暴力で解決したらしい。
地元の凪沢がそういうなら本当にヤバいのだろう。とりあえず「ゴンザ」と呼んでおこう。
チームはゴンザが投手で4番を張るというチームだった。まあうちも考えてみればそうか。投法は手投げにしかみえないが、強靭な上背で荒れ球を放り込んでくるタイプ。イライラ防止のためなのかガムをクチャクチャと噛んでいてまさにカリブ海の島から来ましたか?って感じだ。⋯⋯ブラジルだけど。
投球はまさに「左殺し」。もうぶつかっても一向に構わないって感じのエグい内角をグイグイ放ってくる。
俺たちのチームは一番槍木が左打ち。二番小峠と三番俺が両打ちなのでいつもは左打者三枚並べる布陣なのだが、小峠も俺も右に切り替えた。
先発の胆沢は気合いの乗った投球で押していく。ただ、胆沢は気合いが入ると四球を出して球数が増える欠点があるため、展開によっては俺までお鉢が回ってくるかも。
試合が動いたのは4回、槍木死球。小峠犠打で二進。俺も死球で一死二塁一塁。久しぶりに体表硬化魔法が役に立ったわ。ただゴンザくん、ぶつけても「ごめん」の仕草もないのでだいぶこちらのチームに不満がたまってきた。
4番胆沢。胆沢は内角の球を上手に腕をたたんで左中間に打ち返す。先制の2点適時打。
「よっしゃあ!」
思わず雄叫びを上げてしまう。気持ちはわかるがマナー違反。胆沢は塁審に注意を受けるがそれでは気持ちが収まらないゴンザ君が詰め寄ろうとする。さすがに止めに入るナイン。やはりこうなるのね。うん、美咲が来てなくてよかったよ。こういうのは見せたくない。
両チーム警告を受け、胆沢は少し動揺したのか5回にゴンザにソロ本塁打を打たれてしまう。6回はさらに胆沢の球が荒れ、同点に追いつかれなお二死三塁二塁でのピンチで胆沢の球数が制限数に達してしまう。
三塁から俺が呼ばれた。胆沢は右翼へ、三塁には一年の袋田が入る。復帰後初の公式戦登板。直球2球で追い込むと遊び球は使わず2シームジャイロで外角低めに見送り三振。あまりのも鮮やかにコーナーを突くボールに首をかしげる打者を尻目にベンチに引き揚げる。ごめん、プロでもこれを投げられたら10年はこれでご飯が食えるレベルなんだわ。
ゴンザ君は荒れると「四球」ではなく「死球」になるので球数はまだ残しているらしく続投。6回裏。二死走者無し。俺はあえて左打席に立つ。一球目は内角高め外してボール。続けて二球カットして1B2S投手有利。ここは内角来るだろう。しかもぶつけるつもりで。一撃魔法重ねがけ。内角を抉る鋭い直球をコンパクトなスイングで振り抜く。低い弾道に見えたがそのまま右中間スタンドに。ソロ本塁打で3対2と再びリード。
最終回のマウンドに。コーナー一杯を使って二者連続内野ゴロ。ラストバッターはゴンザくん。
「『左殺し』は投球だけじゃないからな。」
ベンチで雄叫びを上げるゴンザ君。ここで右投げしてもいいんだけど敢えて左でいく。逃げるのいやだしね。
さすが左殺しを名乗るだけあって厳しいコースの2シームジャイロを当ててきた。ほう、やるな。これで人間性さえまともならいい選手になれるだろうに。もう1球やや外目に2シーム。軽々とカット。ほう、もう目が慣れてきたのね。
これでおしまい。俺が直球《4シームバックスピン》で投げた外角低め。自信を持って見送ったゴンザくん。しかし球審はストライクを宣告。ここで試合終了。唖然とするゴンザくん。
タネを明かすと内角をえぐりすぎたゴンザくんを嫌って、ストライクゾーンが2cmほど外角側にずれていたのだ。これは球審の意図的なものかどうかはわからないが利用しない手はない。リードの祐天寺が良く気づいてくれたゆえの勝利だ。
「今のは完全にボールだ!」
激昂したゴンザ君があろうことか球審に掴みかかってテンプルに一発きれいなパンチをお見舞い。目がいいのはわかるがそれだけはいかん。みんなで取り押さえる。
「ゴンザくんだめだよ。」
俺がなだめようとしたらなお激昂。
「ゴンザ言うな!俺はアキラ・スズキだ!」
あ、ゴンザ気にしてました?
なんともいやな幕引きだった。




