リベンジを挑む人たち(リトルシニア全国選手権準々決勝)
「リベンジ」という言葉が流行語大賞を取ったのが5年前の平成11年だ。そう考えると言葉として割と定着しているような気もする。
青学は選手が方々から来ているため、東京での試合で割と家族が集まることが多い。山鹿さんは出身は神奈川だし、能登間さんや中里さん、凪沢は東京出身だ。あとは埼玉・群馬エリアの出身者が多い。中には伊波さんのように沖縄という別格もいるけど。
なんか普段は大人びている上級生たちが家族にもみくちゃにされて年相応の少年の顔をしているのがなんだか微笑ましい。きっと大会が終わればそのまま実家に連れて帰るんだろうな。でも、あと3試合残っているのですよ。
亜美にも連絡した。亜美はさすがにカナダには行けなかったが、いろいろとコネができていつでも練習に参加させてもらえるようなチームが増えたそうだ。決勝まで残ったら見に来てくれるんだそうな。楽しみだな。
「よぉ、のこのこと現れたな。」
大門さんが笑いながらやってきた。そのセリフ……。
「大門さん、それじゃまるで悪役じゃないですか。へんなフラグ立っても知りませんからね。」
女房役の谷塚さんが俺が言いたかったつっこみを入れてくれた。あざ~す。
「まあ俺たちにとって神宮はホームグラウンド同然だからな。」
「そうですね。ホームグラウンドは外苑(神宮第二球場)ですからね。」
「アウェイだからって遠慮はいらんよ。」
漫才かよ。そして……。
「なんじゃあこりゃあ!?」
瀕死の松田優作かよ。青学中等部の応援団に驚いていた。神宮球場だから気合いが入ってるな。野球部の父兄もさることながら応援団の父兄も結構来ている。とにかく仕事第一で学校行事に無関心な親が多かった昭和世代の「中の人」にとっては驚きである。
今日は前日の二回戦と打って変わって伊波さんが絶好調。まさに一番打者として大活躍。凪沢もいい出来で青山打線を寄せ付けず、大門さんに一発は喰らったものの終わってみれば5対1の完勝であった。
俺も今日はつなぎ役に徹していればよかった。
「今日は快勝でしたね?」
俺が朗らかに山鹿さんに尋ねると
「ああ。」
となんともつれない返事。俺が当惑してるのを見かねて能登間さんが教えてくれた。
「次の対戦相手。山鹿がいたリトルのやつが多いんだ。いわゆる古巣との対決だな。」
「まあ、くよくよしても仕方ない話だな。」
山鹿さんは群馬で生まれて横浜で育った。リトルも横浜の名門で正捕手だった。当然、リトルシニアも明日対戦する「横浜本牧」に進むはずだった。しかし、父親の事業が倒産して両親は離婚。群馬にある母親の実家に身を寄せ、資産家の祖父の勧めで家族と近い埼玉の青学を選んだのだという。
「それがあいつらにとって『裏切り』と捉えられてしまっているんだ。」
攻守の要である山鹿さんを奪われた形となったチームは低迷。ようやく今年全国の切符を掴んだのだという。
「ある意味大門よりも正確な意味で『リベンジ』だと言えるだろうな。」
まあ確かにがっかりするよな。チームの大黒柱だったんだもんな。
青学にとってもそうだ。先輩たちは天才揃いで個性が強烈すぎるから、それを束ねるうえで山鹿さんは不可欠だよな。
下手すると決勝以上の決意で挑んできそうだもんな。
翌日の準決勝。朝8時からの第一試合だ。あ、あれが噂の対戦相手かぁ。あらいやだ。こっちを怖い目で見てるよ。
「沢村。そうじゃない。」
なんすか伊波さん?俺の心の声が漏れてましたか?
「『あらいやだ。』はもっと市原悦子風に言うんだ。」
「あら、いやだ。」
「いや、『あら』はもう少し声を裏返してカスレさせてみろ。」
なんの指導ですか!?ほらこっちに近づいてくるじゃないですか。
白縫護、横浜本牧のエース。山鹿さん世代では最高の投手の一人だろう。
「よぉ、久しぶりだな山鹿。ご活躍はかねがね。」
「ああ。会えて嬉しいよ。白縫。」
「俺たちがさんざ苦労してる間に選抜王者ですか?良いご身分だな。今日はお前が裏切った俺たちの努力のほどを見せてやるよ。」
「ああ。」
山鹿さんは否定しなかった。否定しても無駄だし結局、プレイ以外の会話は意味をなさないことを理解しているのだろう。




