主将「候補」と呼ばれて
山鹿さんによれば野球部の目的は甲子園で優勝するという一点しかないので、目的さえ明確に示していれさえすれば部内は自然とまとまるはずなのだそうだ。
「だから主将の役割はみんなに寄り添うことだ。辛い気持ちや嬉しい気持ち、不安や心配を分かちあうことだ。二年の中でそれができるのはお前だけだ。」
確かに胆沢にはできんだろうなぁ。それどころか俺にもできん。
「だから夏の選手権が終わるまで俺たち三年がどう振る舞い、なぜそう振る舞うのか自分なりに観察し、分析するんだ。あと、夏休みの間にリーダー論に関する本を読め。俺が後でリストアップしておく。」
本気で俺にやらせる気ですか?
「そうだ。これは三年生と監督の総意だ。」
有無はないか。もっとも、俺が心配しているのはチームのことではなく自分のことだけなのだ。胆沢の中にある「魔王の欠片」の暴走を恐れているだけなのだ。なんとか胆沢の面子を立てながら俺が破滅しかねないフラグを立てないようにするしかない。ケントにも協力してもらうことにしよう。
わかりました。そう絞り出すように言うと山鹿さんは俺の肩に腕を回す。
「心配するな。1年だけでいい。お前ならできる。俺たちは信じている。引退って言ったってすぐ近くでトレーニングしているんだから困ったらいつでも頼れ。協力も指導も惜しまないから。」
俺は肚を決めた。
青学では月曜日の昼休みは「グローリーランチ」と呼ばれている。スポーツが盛んな学校であるゆえ、各部活の週末の試合の結果や選手へのインタビューが行われる。教師の指導のもとに進学クラスの生徒が所属する「メディア研」が企画しているのだ。
学校のスポーツニュース番組というところだ。
番組にはコメンテーターとしてケントが出演して生温かなコメントを連発している。今日はトップニュースとして我が部が紹介され、伊波先輩が出演し、MCの高等部3年の上級生やケントと軽妙な掛け合いを見せていた。
「伊波さん、いつもながら芸達者だよなぁ。」
凪沢が先輩のコメントに感心する。
月曜日は部活ごとにランチが摂れるように教室が割り振られるのだ。
「あいつはプロ選手か(お笑い)芸人が志望だからな。」
山鹿さんが言った。へぇ、そうなんだ。なんかどっちも似合いそう。
そして、その割り振りも周知されているため、女子生徒たちがファンレターや差し入れをもってくるのも月曜日なのだ。ただしファンレターは「恋愛禁止・中傷禁止」である。俺も新学期に入ってからもらうようになっていた。でも女子の心のこもった「紙媒体」ではなく男子からの「電子媒体」であることの方が多い。
女子からのレターは大抵女子マネたちからの買い出しの荷物持ちのお願いなのである。もう、せっかくの完全オフ日なのに。
月の最初の月曜日は国内外のスポーツメーカーの外商さんが来てくれる日なのだ。ネットで注文したものを届けてくれるだけでなく、売れ残った商品や「はねだし品」などを格安で売ってくれる「アウトレットセール」を構内で開催するのだ。練習用の個人の備品などをそろえるには手ごろで、申請すれば近隣の中高生も利用できるので結構なにぎわいなのだ。
あれ、山鹿先輩じゃないですか。オフ日なのに上下びっちり防具で固めて何やってんですか?
「いや、東京スイフトの降田モデルの防具を市販化するのにモニターを頼まれてな。」
経営努力を怠らない学校なのである。
「せぇんぱぁーい!一緒に荷物持ってくださぁーい。」
押川が甘えた声を出す。いや、全部持つけど?
「半分こです。」
あ、そう。この子こういうキャラだっけ?俺の前世の時は「ぶりっこ」キャラというのが一世を風靡したものだが。
「沢村くんが時期主将だから媚びてんじゃないの?」
高等部の先輩女子マネは辛辣だ。うーん、かわゆい後輩に懐かれて悪い気はしない。こいつは男の性だな。




