そして無双の夏(中学編)が始まる。
中学生の成長速度は速い。この時期に自分を徹底的に自己管理することが将来を左右すると言っていい。いや、食事・運動・睡眠の量と質に関しては小学生時代から始めることが重要だ。
ようやくインターネットで情報が十分に得られ始めた時代だが、最新情報はまだまだ書籍に頼っていた時代だった。ちなみに最近の俺はケントにその関係の本を買ってもらい、読み終わったら図書室に寄贈するの繰り返しだった。
「沢村、熱心だな。お前は暇さえあれば本を読んでいるようだな。結構なことだ。」
山鹿さんとばったり図書室で出会う。彼の手にはすでに俺が読んだトレーニング本があった。
「そこの『理事長文庫』はなかなか良いラインナップがそろってる。利用するといい。」
はいと返事したものの、そこにある本は俺がケントに買ってもらった本なのですべて既読ずみなのだ。「理事長文庫」とは俺の読んだ本の保管先なのである。山鹿さんが尋ねる。
「お前はなぜ本を読む?」
「はい。頭は柔らかいうちに使うべきだと、そしてトレーニングもただやらされるよりも内容を理解した方が意識して鍛えられると父が。」
⋯⋯言っていないけどそういうことに。
「そうか。」
先輩は満足そうに頷くと「仮性近視」に気をつけるよう本は明るいところで読め、とアドバイスをしてくれた。
ほんとこの人、絶対に転生者だろ……。疑惑はますます深まったぜ。
関東連盟夏季大会、つまり関東予選をチームは順当に勝ち上がっていく。チームの打線に関していえば1,2番の伊波・能登間さんの出塁率と4,5番の山鹿、住居さんがチャンスに滅法強いため、3番打者の俺はつなぎ役で十分だった。要は先輩たちの当日の調子の良し悪しを見て決めるのだ。
前後の調子が良ければ適時打でチャンスを拡げればいいし、前が悪くて後ろがよければ自分が累に出てチャンスメーカーになればいい。逆に後ろの調子が悪ければ本塁打などの長打で自分で決めてしまえばいいのだ。
これで中里先輩の離脱がなければまさしく伝説の夏なったはずだ。ただ先輩の故障はひじや肩など選手生命に深くかかわるものではないので、しっかりリハビリを励めば高校野球で十分な活躍ができるはずだ。
あとは投手陣だが、これも山鹿さんのリードで実力以上のものが出せている。胆沢など前世とは比べるべくもない。球速は10km/hは速いはずだ。ただ、三振を取りたがる性格は変わっていないようでたびたび注意を受けていた。
「沢村には三振を取らせにいくのに。」
よくそう言って凪沢にこぼしていた。ナギは苦笑交じりにこう言っていた。
「それはしょうがないよ。沢村はリリーフだから走者がいる場面から始まることもあるわけだし、基本打たせるわけにいかないからな。それに山鹿先輩が言うにはあいつのコントロールは中里先輩より上らしいよ。あれでスピードがついたら高校生ですら打てないらしい。案外夏が終わったら俺と役割が入れ換わるかもな。」
おい、そういうこと言わないでくれ。胆沢が恨めしそうな顔でこっちを見てるじゃないか。俺は投手よりも打者の道を極めたいのだ。……胆沢の中にある「魔王の欠片の存在を差し引いてもだ。
チームが4回戦を勝ち、ベスト16に決まると、ここからが選手権への出場権をかけた獲得する戦いだ。12チームは準々決勝で勝った8チームと、敗れてベスト8を逃した8チームによる敗者復活戦で勝ったチームだ。去年は敗者復活戦での勝利だった。
ただ先輩たちはあくまでもこの大会でも優勝を目指している。全国に行ければ良いのだから別にベスト8でもよくない?俺は伊波さんに注意される。
「沢村、シニアならそれでも良い。だが俺たちの目標はあくまでも甲子園だ。甲子園の予選に敗活は無い。だから俺たちは勝ちにこだわる。違うか?」
確かに。
そして、準々決勝の相手は千葉県のチーム。先発は背番号1を背負った凪沢。試合が始まる。




