誕生日にまつわるエトセトラ。
2B2Sからのシュミット氏の球は渾身のスライダー。左対右なので俺の膝元にぐいっと食いこんでくるいやらしいボール。センター返しを心がけしっかり捉える。
少しつまり気味。走者は打球の行方を目で追う。左中間方向。意外にひと伸びした打球はそのままスタンドギリギリに入る、本塁打。
よっしゃー。
思わずガッツポーズをしてしまった。高校野球じゃないから怒られないよね。
みんなにお出迎えされハイタッチ。ヘルメットをペチペチするのはいいんだが手がデカいから痛いんですけど。
「みずから誕生日の祝砲ですかぁ。」
「いやいや、チームのために打ちましたけど。」
……お礼はホームランでいいよとか言ってたの自分たちの方じゃん。
「ほんとに打つとか律儀かよ。」
ただシュミット氏をそこから崩しきれず、あとは0行進。ただそれ以上に日本の投手陣も出来が良かった。椙内さんが5回を無失点。それを引き継いだ田仲さんが3回を無失点。ちなみに俺以外で10代の選手は彼だけ。2学年上だが誕生日の関係でぎり19歳なのだ。
試合は故障上がりで調子が戻らない守野さんの代役で起用されたG.J.左藤さんが8回にダメ押しとなる2ランが出て5対0と完勝。そのせいで最終回を3人でピシャリと抑えたものの河上さんにはセーブがつかず。
「お前のせいじゃん。どうしてくれんだよ。」
と左藤さんをからかっていた。
「ちゃうやろ、昨日俺にセーブが付かんかったの喜んどったバチがあたったんや。」
同級生の植原さんに突っ込まれていた。
俺は試合後のインタビューで「誕生日」について聞かれる。
「今日はチームのみなさんにお祝いしていただきました。ホームランもうれしいですが、試合に勝てたことが最高のプレゼントだと思います。」
そして一緒にインタビューを受けていた左藤さんに話が振られると
「……実は俺も合宿最後の壮行試合の日が誕生日だったんだよねぇ。しかも節目の年(30歳)だったりして。誰も気づいてくれませんでしたけどね。」
と自虐ネタを披露。すんません。実は俺も気づいたの今日でしたけど。
「節目って40歳なんすか?見た目よりずいぶんと若いですよ。」
椙内さんが畳み掛ける。
「30だっつーの。どんだけ老けて見えるんだよっ。」
左藤さんに
「じゃあ『チャンねえ』のいるところで改めてお祝いを⋯⋯。」
俺がさらにボケると二人がツッコミ。
「お前は未成年。」
「チャンねえとか下品な言葉を使わない。」
うん。チームとしてはしっかり良い雰囲気を出してんじゃないの。
翌日は「因縁の」南高麗戦。
もちろん「因縁」というのは南高麗側から一方的につけてきたものだ。もともと国家が教育によって全国民に日本人に対する敵対心を植え付けてきた。それは国民の不満を政府に向けさせずに一致団結させるためには国民共通の「敵」が必要だったからだ。まあここで歴史について紐解いても仕方ない。
それが露骨に表面化させたきっかけとなったが前述したヰチ□ーさんの例の「30年」発言だった。そして2次リーグで日本代表に勝利した韓国代表のとった行動はマウンドに国旗を立てるという行為だった。
平成14年のサッカーワールドカップの韓国人理事による露骨な審判員買収事件と合わせて日本人のスポーツファンに衝撃を与えた事件だ。日本人の女性に比べて男性の「麗流」に好意を持つ割合が低いのはこの二つの事件の影響が大きいかもしれない。
目の前できれいに整備されたマウンドを崩されてペプシっぽい旗を立てられるのも癪だしな。
練習が終わり試合に備える。
「健ちゃん、お店楽しみだな。」
いや、もう「ご褒美」が気になるとか気が早いですね。
「まあ勝った方が気分が良いですからね。今日は勝ちに行きましょう。」
「健ちゃん、真面目か。」
明日は予備日。幸い雨天中止がなかったため休養日になる予定だ。そのため、その前夜となる今夜はダルさんと左藤さん(取ってつけた)の誕生日祝いにかこつけて、綺麗なお姉さんのいるお店で羽目を外す予定なのだ。
「健ちゃん、こう言う時だけ未成年ってつまんね〜よな。」
「未成年」仲間の田仲さんに肩を組まれる。
「あれ?知らないンすか?中国で未成年は18歳未満ですよ。しかも未成年相手に酒を売ってはいけないが、飲んではいけないという法律はありません。」
もうすぐ二十歳の彼にとっては朗報だったに違いない。いや、この国では18歳から飲酒が合法なのだ。
「健ちゃん、主もワルよのぉ。」
「いえいえ、お代官様ほどでは。」
そして、気持ちよく飲めるかどうかがかかる「因縁の」韓国戦へ。