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雨上がりの初勝利。

 短期決戦の良し悪しというものがある。高校生の俺にはそれが身に染みている。何しろこれまで負けたらそこで終わりの野球生活を延々と続けていたのだ。


 もちろん、オリンピックの予選は総当たり戦なので上位4チームに入れば良いという短期決戦ながらも少なからず余裕があるが、だからと言って一度の負けの重さはリーグ戦の比ではない。だからこそ調子の良し悪しは大切だ。


 「あぁ、厄落としに呑みに行けば良かったよなぁ。」

午後からの球場での練習。今日は台湾(チャイニーズタイペイ)が相手だ。

「さすがに監督(オヤッサン)のあの機嫌じゃ無理でしょうに。」

俺は苦笑を禁じ得ない。


 敗因は打線のつながりか。もちろん投手の出来も最高とは言わないが、キューバ打線を4点で抑えたとあればまずまずのはず。


 今日の球場練習は雨のために中止。軽く身体を動かし、日本のマスコミだけでなく台湾のメディアにも話を聞かれた。日本語が上手で感じの良いお姉さんだった。質問は台湾チームの印象や注目の選手に対する質問。関心があるのはどの国も一緒なんだな。一応用意して置いた無難な答えを返しておく。


 そして、契約金7億円の使い(みち)だった。

「まあ、色々約束ごとがあっていっぺんに全部を貰えるわけじゃないですから。少なくともあの金額でも安かったと言われるぐらいの成績を残したいですね。」

うむ。アジア向けなのでこう言う受け応えの方がいいのだろうか。


 2年前のWBC。ヰチ□ーさんが「向こう30年手出しできないと思わせるくらいの勝ち方をしたい」という意気込みに関する発言が南高麗メディアによって意図を捻じ曲げられ大騒ぎになった。南高麗チームに敗戦した際にはマウンドに国旗を立てるという侮辱行為を働いて来たのは記憶に新しい。それだけマスコミの悪意のある「切り取り」報道は怖いのだ。


 試合はメイン球場でのナイトゲーム。それまでになんとか雨はやんだものの、グラウンドコンディションはあまりよくない。


 和久井さんが先発。捕手は昨日の千葉マリナーズ里咲さんにかわって東京ギガンテスの安倍さん。


 ビジターなので今回も先攻である。お客さんは3割くらいの入り。日本から応援に来てくれている人たちもいて頭が下がる。ホテル代はさぞかし高いんだろうなぁ。


相手の先発の(シュウ)選手は技巧派。球速は無いが、回転がしっかり乗ったキレのあるストレートにチェンジアップとカーブ。そして低めに決まる決め球のフォークが持ち味。タイプ的にはセ・リーグ向きな選手だ。


 タイミングが合わせずらく、こちらは凡打の山。俺も1打席目はフォークを振らされて空振りの三振。言い訳させてもらうとアメリカ流のゴリゴリと速球で押してくる方が得意なんです。でもしっかりと見きわめさせてもらった。

 

 「健ちゃん、球が速そうに見えるけど回転(キレ)があるだけだから、タイミング早いんじゃないの?」

 安倍さんにアドバイスされる。さすが、セを代表する強打者。このタイプは手馴れてそう。

「あざっす。」

 身体少しつっこんでたかなぁ。よく見てるわ。多分捕手の本能。山鹿さんもネクストサークルで俺をよく見てたっけ。脳内で俺の「攻略」をしていたらしい。


 4回の2巡目。ランナー無し。0コンマ1秒以下の微調整。決め球はフォークではなくカーブ。うん、見える。0コンマ1秒の「じっくりさ」が効く。低めのコースのカーブをアッパースイングで振り抜く。


 雨が上がり少し湿った空気を切り裂いてボールが飛ぶ。やや暗めの照明、ボールの行き先に観客が動く。ライトスタンドに入る先制アーチ。拍手が起こる。


 俺はややゆっくりとダイヤモンドを一周する。みなハイタッチで迎えてくれた。


 その裏、1点を返されて同点。そして、5回表は安倍さんにも一発。再びリード。6回を見事に1点で抑えた和久井さん。その後、石瀬さん、富士川さんとつなぎ、9回にはさらに4点追加して6対1で快勝。


「俺にセーブがつかんがな。」

9回を三人でピシャリと抑えた植原さんがボヤく。

「ま、勝ったからええわ。」

他の人がフォローする前に自分でツッコミをいれてしまう。


試合後のインタビューで俺もカメラの前に呼ばれる。

「今日は安倍さんのアドバイス通りにやって打てました。今日のは安倍さんの2ランみたいなもんです。」


 先輩をヨイショすることは怠らない。いいんだよ。いやらしいくらいでちょうどいい。これで1勝1敗のタイ。明日はオランダ戦。そして、俺の誕生日。






 






 

 

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