勇者の「魔法」とスクールライフ
ケントは俺に席を勧めると説明を始めた。
彼は医師の資格を取ると魔法を使ってセレブたちを治療して荒稼ぎしていたという。とあるハリウッドスターの薄毛をなおしたらポンと1000万ドルもらったらしい。ブラックジャックかよ。
「無論だれでもいいわけじゃない。共産主義者はお断りさ。まあ来たら全財産をはぎ取ってやるがね。」
冗談とも本気ともつじゃないジョークを飛ばしてから続ける。
「健は異世界でよく言ってたよね。転生したらプロ野球選手になりたいってさ。だから待っていたのさ。」
いや、俺そこまでケントになにかしてあげた覚えはないよ。ケントは親指をたてる。
「だって私はきみの先導者だからね。全力で君をサポートしよう。」
ただ問題もあるという。それは胆沢の存在だ。彼の持つ魔王スキル「かかとを掴む者」-俺が「癇癪」って呼んでいるヤツ–はまだ彼の未熟な感情に無差別に反応しているだけだが、彼が力に覚醒すると厄介な問題になるかもしれないということだった。
ただし完全に覚醒しても妨害する「対象」を定められるが妨害する「方法」は決められないというのだ。だから俺は自分が胆沢の悪意の矛先が向けられた時のために「運」の数値を上げてもらってあることを説明するとホッとした表情を見せた。
「そうか良かった。キミが甲子園の出場資格まであと3年、そしてそこから3年間はチャンスがある。まだ本格的な成長期はまだのようだからか負荷は避けつつ、鍛えるべきところは鍛えて行こう。」
ケントは俺のためだけににこんな学校を作ったのだろうか。
「それは気にする必要はないよ。私の道楽の一環だと思って欲しい。ただアニメで観た日本の学校生活とはかなり違うだろ?」
この学校のカリキュラムはアメリカ方式で、野球だけではなく陸上や他の競技の練習も取り入れているのだ。だから同じ部活に属する生徒だけでずっと固まっていることもなく、幅広い世代の人間と幅広い範囲の交流を持つことによってメンタル的にも成長しやすいのだ。
競技の関係で男子生徒が多そうな気もするものの進学コースも併設されていて、女子生徒の人数が多い。チア部や吹部も県内ではかなりのレベルであるため男女の生徒総数に差はない。
また寮生活者が多いため進学コースの生徒には学校外でのアルバイトを禁ずる傍ら、運動部のマネージャーになると学校内で使用できる電子マネーのポイントが時給として付与される仕組みになっていて、実質的なアルバイトになるため女子マネージャーの確保も容易であった。
「沢村君、学校生活には慣れたかしら?」
俺は「担当教師」に呼び止められた。なにしろ「学級」というものがない。朝登校すればまずロッカールームに行ってそこを拠点に授業ごとに教室を移動するのだ。完全にアメリカ方式の学校である。時間割は「担任」ならぬ「担当」教師と相談して決めていくのだ。
「あなたの英語の成績は素晴らしいわ。まるでネイティブみたい。海外での生活経験があるのかしら?」
「ディ●ニー映画で覚えました。」
「勇者」のはしくれだった俺には支援魔法のほかに異世界で生活するための基礎魔法、いわゆる「ラノベ魔法の三種の神器」はもっていたからだ。
30程度の「言語」。簡単な「鑑定」。標準的な物置一つ分くらいの「収納」である。おかげ様で英語はAクラススタートであった。
こうして、甲子園を目指す俺の戦いが始まったのだ。