たまには「やれやれ」とイキるのが「なろう」の醍醐味。
第一打席で「効果覿面」だったのが忘れられないのか、平安ベンチは再び俺に「解除魔法」をかけてくる。
「やれやれ」。お前ら俺に二度も同じ手が通じると思ったか?俺が打撃魔法セットの上にさらにかけていたのは「反射魔法」だ。さらに「混乱」のデバフも乗せておきました。
混乱魔法をもろにくらって恐慌に陥った彼らはそのまま「解除魔法」を味方の投手にかける。思いがけない事態に真っ青になる投手の山波。はよ投げんか。さあ、命中率アップ無しで投げてみなはれ。そんな「小便カーブ」で俺様から空振り取れるとでも本気で思っていたのか?
俺の打球はこれまでの彼らの労苦を嘲笑うかのように、打った瞬間に本塁打とわかる打球。そしてガッツポーズを決めて球審に怒られたのは俺ではなく塁にいた安武と小囃子。なんで君たちが?まぁ、かわええからいいけど。
これで3対3。一気に試合は振り出しに。ただ、「法力」研究の時代の長さに彼らは自負を持っているのだろう。まだ目は死んではいない。
次の4回こそ彼らの最後の魔法の使いどころなのだ。彼らの持つ魔法総量からすれば次が最後の「魔法攻撃」チャンスの「はず」なのだ。
9番投手の山波が凡退し、一番山前。加速魔法でセーフティバント。まあ「疾い」。「速い」じゃなくて「疾い」。そしてすかさず二盗。捕手の祐天寺も阻止率高いんだけどぜんぜん間に合わない。
仏教系の高校だからか皆数珠をつけているのだが、恐らく魔法を発動する「宝具(法具)」になっているのだろう。
二番芹沢も「加速」。セーフティバント。一塁送球されたが守れず。くっそ。一死一三塁。ここで監督から伝令。リリーフ俺?ここでか?ワンポイントというか、2ポイントの起用だという。
凪沢がライト、安武が一塁に回る。うーん。魔法使い同士の野球対決なんて考えたこともなかったぞ。
祐天寺は
「サインはお前が出せ。」
と俺に丸投げ。もちろんこれは彼の気遣い。こういう守備だけなら山鹿さんにも劣らないかも。
三番長倉は「カウンター」魔法。どうやら彼らは魔法の重ねがけはできないようだ。そう考えると魔力量は思ったよりは高くないのかも。
カウンター相手にどんな魔法使うねん?とりあえず「インサイド」というか内角球は攻撃と見做されて打ち返されるわけだが。俺は魔法をボールに込める。だって、俺が自分にかけた「命中率アップ魔法」は相手ベンチからの「解除魔法」でキャンセルされてしまったからね。
初球は外角低めいっぱいに「4SB」。「運良く」ストライク。魔法無しだったからね。そしてインサイドに「4SG」。これも空振り。
長倉は信じられない、という表情をする。そりゃ「カウンター」が発動しなければ当たらんわな。そして、全く同じところのにもう一度「4SG」。空振り三振!
長倉は思わず天を仰いだ。
小さくガッツポーズ。なぜカウンター魔法が炸裂しなかったかって?俺はボールに込めた支援魔法は「祝福(幸運度アップ)」。カウンターとは「敵意」に対して発動するからな。こちらが「祝福」しに行ってんだから、発動するわけないよね。俺はツーアウトのハンドサイン。
「やれやれ、これで2アウトだぜ。」
四番西塔。彼の魔法は「体力倍加」。恐らく当たれば長打。スイートスポットの広い金属バットを持つ選手が使えば「凶器」そのもの。俺は再びボールに魔法をかける。いつもは自分にかけるのだが「ボール」にかけるのがミソ。
まず2SG、4SGで空振りを取る。悪いが遊びは無しで。3球目はジャイロのSFF。空振りの三振。かけた魔法は「回避率アップ」を重ねがけ。当たらなきゃ飛ばないからな。これでチェンジ。
「やれやれ。魔法に関しては『年季』が違うのよ。」
ベンチの中でハイタッチ。
「悪い、なんか抑えられる気がしなかったわ。」
凪沢がホッとしたような顔をする。そりゃそうだろう。お前、「怯え」の状態異常魔法がかかっているからな。
「凪沢。ゴミついてるぞ。」
「わりい。」
俺はホコリを払う振りをしながら解除魔法をかける。俺も魔力の残量を考えながらやっていかないとやばい。あとはさらに逆転し、勝利あるのみだ。