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こだわる男たち.

「高速ナックル⋯⋯だと?」

 実は変化球が投げられます、は分かるがいきなりぶっ飛び過ぎてる。ただ、捕手も取れず前にこぼしていた。さすがにランナーがいたら使えないな。普通にチェンジアップ覚えればいいのに。……いや、それはそれで厄介すぎる。


 それに、あの投球フォームは危険だ。本人は「クロール投法」などと言っているらしいが、肩の筋肉や肘に極端な負担をかけてしまっている。何よりも身体の捻りがほとんどない。


 アメリカのアカデミーでも青学でもコーチに泣いて怒られるフォーム(やつ)だ。下手をするとプロに行っても3年も経たないうちに「トミー・ジョン手術」行きになりかねない。


 まあ直球しか投げないような男にそんなことを言っても聞く耳を持たないだろうけど。逆に、その危険を考えてあえて比較的負担の少ない直球しか投げないのかもしれないが。


 胆沢は二死から9番と1番に粘られた上で連打を浴びるもなんとか無失点。とにかく藤村の前にランナーを出さなきゃ勝てるはず。

 

 一方、流石にナックルは危ないと見たのか三原にはフォークを決め球に三振。ところ150km/h近いフォークを捕手の岩井が後逸。三原はまんまと振り逃げ成功。まさか、これまで試合で投げたことがないとは言え練習くらいしてなかったのだろうか。いや、俺が捕手ならわかっていても取れなさそうだ。


 よし、これで落ち球封印!行け小囃子(ミッツ)。しかしカーブで三振。なんだよ。普通の変化球持ってんじゃん。ただ、ご本人様は変化球を投げさせられたことにいたくご不満そうだ。


 それなら俺には直球勝負だな。と思ったらナックル。これ魔法の「選球眼」でさえ情報処理が遅れて当てられずに敢えなく三振。五番帯刀もあっさりカーブの餌食で三振。こう考えると封印解除前に点取って置いてホントに良かった。


 6回は一死無走者で藤村。右中間に深々と三塁打。4回にも二塁打を打っているのでサイクル安打リーチ。こちらはバックホームシフトを引いていたがショートゴロの間に1点献上。まだ5対2。


 ここで胆沢の投球が110球。チームの規定で交代。レフトから安武(トラ)が呼ばれ胆沢と交代。打たせて取るピッチングで三人で抑える。彼も150km/hの直球と大きく縦に割れるカーブを交ぜた投球で相手を翻弄する。コイツも他の学校ならとっくにエースだろうに。


 ただ何度も言うが高校でどれだけ頑張っても上がるのは「契約金」だけ。だからこそ、いかに肩や肘を消耗させずに選手を育てあげるのが青学のポリシーなのだ。


 上位打線相手に「封印を解いた」とは言え、まだウチの下位打線には藤村は直球勝負で十分通用。なので後半戦は淡々とした投手戦。


 そして8回の理想舎高校の攻撃。二死ながら三番がヒットで出塁。4番藤村。単打でサイクル安打じゃん。でも3点負けている彼にとっては記録どころでは無いだろう。2球目の外角への直球を藤村のバットが弾き返す。二遊間。一塁ランナーは一気に本塁突入を試みる。ここは間一髪アウト。藤村はきちんと2塁まで走っていた。


 その裏、一死無走者で打者俺。さてどう来るか?高校野球ではボールを投げるまでの時間が短い。それこそ情緒もへったくれもない。初球はカーブで入って来る。もはや「自分の力を知らしめす」投球から「勝ちたい」投球に切り替わっている。


 天を突くようなワインドアップ。全身全霊と言わんばかりのダイナミックなフォーム。これは自分の存在意義である直球で来る。バットに当てたが完全に振り遅れ強烈なファウル。球速はここにきてまた157km/hを記録(マーク)


 いや、もうこれは勝敗なんかどうでも良いと思ってるくらいこの対決に集中している。世代ナンバー1強打者(スラッガー)である俺を「仕留め」ればそれがすなわち彼の勲章とも言わんばかり。


 「クロール投法」の話をスポーツ紙の記事で読んだ時、俺も幼い頃、肩甲骨の稼働域を広げるためにスイミングに通っていたことを思い出したのだ。俺が力んではいけない。金属バットが敵を叩き潰す西洋剣なら、木製バットは敵を斬るための日本刀だ。


 身体を捻り、しっかりと脇を締め、コンパクトに振る。インサイドに来たのは逆球だったのだろうか。センター返しを意識して振り抜く。快音を残したボールはものすごい勢いでセンター方向へ。回転が強いからこそ芯に当てるのが難しいが当たれば飛ぶ。ラバーフェンス直撃の2塁打。


 ただ得点に結びつかなかった。試合はそのまま5対2で俺たちが勝利。準々決勝にコマを進めることになった。


 敗北した理想舎高校のメンバーは涙を流していた。勝者の俺たちがかける言葉はないが、決して楽勝ではなかった。最初からあのピッチングをされていたら立場が入れ替わっていたかもしれないのだから。




 


 



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