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大人のお店に連行されて。

 オーストラリア代表とは去年のインターコンチネンタル杯でやって、しかも勝っているから別に苦手意識もない。しかもあちらさんにとってはただの「練習試合」。実はアジア選手権の直前に国際野球連盟(IBAF)が主催するワールドカップが同じく台湾で開催される。その参加途上で相手をしてもらったわけだ。


 短期決戦で重要なのはこちらが「力負け」しないということ。相手バッテリーがこちらを良く知らない以上、ベストコースにベストショットという投球の組み立てになるからだ。


 最初の打席は二死無走者。相手の力任せの投球に俺は魔法で強化されたフルスイング。ぶつかり合う力と力。打球がスタンドに突き刺さるとしばらく静寂からの大歓声。


 高校野球と違ってベンチ前でのお出迎え。メンバーの顔には明らかに闘志の火が(とも)っていた。その半分は俺に向いているはずだ。さすがにお客さんが入ってプロ魂が甦ったか。


「そう言えば健ちゃんは去年のインコチ行ってたんやな。連盟も本音は今年も呼びたかったんちゃうん?」

 言われてみればそれでも良かったのだ。俺と同じアマチュアの長谷川さんはこちらの合宿ではなくそっちに行っていたのだ。ただ俺の場合はプロに混じってなお自分を出さないとただの「控え」で終わる可能性が高そうだと思っていた。だからこその合宿参加を選択したのだ。


 壮行試合となったオーストラリア戦は2戦とも日本代表が勝利する。俺も二試合で3本塁打を含む6安打打って十分アピール。あとは「実績」を取るのか「調子」を取るのか首脳陣の判断に任される。


 壮行試合から休日を挟み、1週間はまた練習の日々。11月30日の最終発表を待つ。


 そして、正式メンバー24名の中に、俺の名前があった。ただしうがった見方をすれば、使えるアマチュア選手がいればそれだけプロ球団への負担も減る、そんな思惑も見え隠れしていた。


 宿舎のホテルで会見が行われる。身長の関係もあるが後ろの列でニコニコ(ヘラヘラ)していればいいや、と思っていたが不意にこちらにもマイクが回ってきた。スター選手に話を聞けばいいのに。


 「しっかり3つ勝ってオリンピックの出場権の確保に貢献したいと思います。」

あらかじめ用意した抱負を「棒読み」してマイクを突き返したらまだ聞きたいことがあるらしい。


「唯一の高校生だけどプロの野球との違いを感じたか」というこれまた想定内のもの。

「野球の取り組み方も姿勢も素晴らしいので毎日が勉強になっています。今後に役立てていきたいです。」

 うしろに(棒)を付けたくなるような言葉に記者さんは不満そう。周りは俺を見てニヤニヤしている。「ボケろ」と言わんばかり。くっそ、「イキリ」キャラで「ヘイト」を集めるつもりが完全なるマスコット扱い。


 でも「実績の無い」選手が結果を出す前になにかを言うのはリスクが高いから、ファンを敵に回すような発言だけは極力避けたいだけなのだが。


 俺たちは空路で宮崎から会場の台中(タイチュン)へ。2時間40分くらい。時差が1時間ある。


 会場が去年と同じインターコンチネンタル球場なのはありがたい。今日は休養日で試合は明日の18時(日本時間19時)から。


 宿舎のホテルでは歓迎レセプションもあり、食ったか食わないかわからんくらいの立食パーティに付き合わさせられる。はぁ。後で夜市に飯食いに行こう。


 俺がホテルを抜け出す前に監督に許可を取りに行こうと部屋を尋ねるとマネージャーさんからコーチたちと飲みに行ってすでに留守だと告げられる。マヂか。さすが昭和の人間。


「健ちゃん、門限だけは守ってね。未成年なんだから。」

ボスもな、と言う言葉を飲みこんでロビーに行くとデカイ兄ちゃんたちがすでに集っていた。ワールドカップから台湾にずっといた長谷川さんがその中にいて、助けて欲しそうにコチラを見ている。


 「健ちゃん、中国語できるんだって?」

「あ、台湾なんで簡単な日本語なら普通に通じますけど。」

軽く突き放して見る。しかし、長谷川さんは俺にメモを押し付ける。ワールドカップに出た社会人チームの監督さんから渡されたお勧めの「KTV」の店名と電話番号。


 「KTV?」

「こっちでいうキャバクラのことらしい。俺だってそんなとこ行ったことなんてないんだよ。」

でしょうね。

「キャバクラ⋯⋯。」

ただ俺たちの周りで勝手に上がるボルテージ。


 何で俺が電話でタクシーやら店の予約やらすんのよ。高校生だぞ俺。まあ良いや。「はいみなさん。いいですか?お店は深夜1時までですけど門限までに打ち上げること。そして女の子のお持ち帰りは禁止ですよ。『文●』に載りたくなければね。」


 タクシーの運ちゃんに行き先とお迎えをお願いしチップを握らせる。やれやれ、どう言う高校生だよ?


「ほな、行ってらっしゃい!」

俺が手を振ると腕をガッチリと掴まれて車内に引きずり込まれる。


「ふぇ?」

ちょ、俺はこれからルーロー飯を食いに屋台に行きたいんですけどぉ!


「そんなん出前で取ってやるから。」

そう言う問題じゃねぇ。俺はまだ未成年なんで⋯⋯。ちょ……。





 


 

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