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ここから前世とは違うラインへ。

 胆沢の父ちゃんが監督になり、俺は新しいチームで2番バッターに「降格」した。

監督は「2番バッター最強説」を信じている「(てい)」で俺を4番から外したのだ。俺の代わりに4番に入ったのは胆沢であった。


 とは言え戦術的には納得出来る采配でもある。リトルリーグは6(イニング)制なので打席数が増えるのは歓迎だった。しかも一番バッターは亜美だったから、彼女が出塁して俺が一気に本塁まで帰すという得点パターンが生まれ、夏へ向けた春の予選は初回に必ず得点がつく展開が増えた。


 胆沢はエースで1つ年上の新井さんと投手ピッチャー中堅手(センター)を交互に務めることが多い。ちなみにリトルリーグは中学1年の夏までの参加が認められているのだ。リトルはアメリカ発祥の組織なので学年は9月で切り替わるためだ。

 

 北関東連盟の予選大会で優勝を果たし全日本選手権の切符を獲ると、俺にリトルシニアの強豪チームや高校野球の強豪校で中等部を持つ学校からお誘いや案内がくるようになった。なにしろ優勝候補のチームの監督たちが「警戒する選手(ライバル)」にこぞって俺の名前を挙げる。「ミニゴジラ」の二つ名は俺が思っている以上に効果抜群であった。


 全国大会の試合には公共放送の地方局やテレビさいたまのような地元ローカルU局も取材に来たが、メインの対象は亜美だった。当然「相方」の俺もセットだ。


 日焼けした肌にくりくりとした大きな瞳、長いまつ毛。(実は九州男児のパパに引くほどそっくりなんだけど)溌剌(はつらつ)とした美少女はテレビ向きなんだろうな。


 亜美が打って俺が返す。そして亜美が四球を選んで塁を埋め俺が本塁打。試合は胆沢の完封勝利だったが、守備でも俺とのコンビで美技を連発する亜美に大人の関心は集中していた。明らかに胆沢は嫌そうな顔をしていた。良い投手はエゴイストくらいでちょうどいいのだが、やつが亜美に癇癪(スキル)が向けるのも困る。


「あ、スパイクの紐切れた!」

亜美がしゃがみ込む。あ、これあげるよ。俺が新しいのを渡すと

「ありがとう、準備いいね。」

と褒められる。うん、原因は胆沢の癇癪(スキル)だからな。一応、彼女にも魔法防御を付与(エンチャント)してあるのでしばらくは大丈夫だろ。


 しかし、俺たちは結局準々決勝で負けてしまった。というのも俺が敬遠されてしまったせいである。打ち過ぎると今度は相手にしてもらえない。俺は「手加減」の必要も自覚する。これが野球の難しいところである。四球を狙って少しストライクゾーンを外したくらいの球なら難なく打てるのだがたいていは「申告敬遠」。審判に敬遠を申告すれば投球なしで一塁へ歩かされるのだ。


 強打者のジレンマといえばそうなんだが勝負してもらえない状況がしばらく続き、春の選抜にむけた秋の大会でもそれは変わらなかった。頂点を極めた成れの果てである。


無聊(ぶりょう)(かこ)っていた俺を父親が観かねて誘ってくれた。

「健。パパのチームで練習するか?」

 父親の提案で俺は社会人チームの方でも練習することになった。父の会社のクラブチームはバブル崩壊による不景気の余波で解体されてしまい、有力な選手は他のチームに引き抜かれていき、残った選手はその後立上げられた市民クラブチームに合流したのだ。今は主に利根川(とねがわ)河川敷(かせんじき)にあるグラウンドで練習していた。


 さすがに守備連携まではさせてもらえなかったが、キャッチボールやバッティングやノックなどの練習は大人に混じってさせてもらい、結構可愛がってもらった。


「健ちゃん、中学生になったら公式戦でるか?」

「いやいくらなんでも義務教育中(こども)はダメだろ。そうだ、これだけ上手いんだ。中学は青学(せいがく)に行くんだろ?」


 県立深谷青淵学館ふかやせいえんがっかん。中高一貫校でスポーツに重点を置く学校だ。関東平野北部の田舎ならではの巨大な敷地と充実した施設を持つ。入学には受験が必要だ。学力試験、面接、体力テストなどがある。県内はもとより全国から受験生が集まって来る。


 地元のリトルシニアしかなかった前世とはここで違った流れに乗ることになる。不安もあったが中学受験に挑戦することにしたのだ。

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