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「夢のカケラ」と「魔王のカケラ」

 決勝前夜。というか準決勝の夜というべきなのか。俺は珍しく眠れておらず、そろそろ睡眠魔法に頼ろうか、という頃。ホテルのフロントから電話が入る。ご家族と名乗る女性の方からの電話だがお受けになるかというもの。普通は受けつけないそうだが、火急の要件ということなので確認したという。

「サワムラミサキ様、と名乗っておいでです。」

「それなら妹ですね。すみませんがつないでいただけますか?」

美咲が?なにかあったのだろうか?


「もしもし、お兄?」

「どうした美咲。なにかあったか?」

「あのね。亜美ちゃんがこっちに来ててね。お兄にどうしても伝えたいことがあるって。」

亜美が?どうしよう。門限も近いし、監督に許可を取るにしても、家族なら少しは許されるだろうか?今月はプリペイドの携帯を持っているからそれでもいいのでは?いや、わざわざここまで来たということは直接会う必要があると言うことか。


 俺は監督に面会の許可を取ってからフロントにまで迎えに来た父親と合流した。


 車で近くのカラオケボックスに行きそこで話を聞くことにしたのだ。

「なんか歌う?」

亜美が戯けたように聞く。

「俺はBOφWYしか歌えんぞ。」

 中の人がドストライク世代なのだ。ちなみにφ(ファイ)ではなく0(ゼロ)

/(ストローク)が正しい綴りだ。

「へー、お兄に歌える曲なんかあったんだ?」

美咲が感心したように言った。確かに家族でカラオケに行ったことはないが、去年の社会人野球の時は割と試合後の「打ち合わせ」と言う名の「打ち上げ」に何度となく連れ回されていたのだ。


冗談はさておこう。

「なにかあった?」


亜美の顔が一瞬にして真顔になる。

「ねえ?あんたって本当は何者なの?」

「例の続きモノの夢の話か?」

俺と異世界の亜美との物語か。亜美がうなずく。

「その内容は真実だと思うのか?」

「⋯⋯わかんない。だから聞きに来たの。ただの夢と片付けてしまうにはあまりにも内容がきっちりしすぎているもの。もし、健が私の夢の内容を知っていたらそれは本当の話かもしれない。」


「見たのか?俺が仲間に見捨てられて、ケントと共に魔法で消し去られたのを。」

亜美の憔悴しきった様子からすればそこまでを夢で見たということだろう。


「なんで、昨日私が見た夢をあんたが知ってんの?」

やっぱりか。

「それが物語の最終回だからさ。もしかしたらその後のエピローグがつくかも知れないが俺にその内容は分からん。何しろ俺はそこで死んで、こうしてここに転生したのだからな。それは俺と亜美の前世の夢だ。信じる信じないは亜美次第だけどね。」


 よほど生々しい夢だったのだろう。彼女の肩が震えていた。

「大丈夫?亜美ちゃん。」

亜美の隣に座る美咲が彼女の腕をさすった。


「それよりも、『異世界(向こう)』の亜美から何か言伝はなかったのか?」

「これ。」

亜美はポシェットの中からハンカチを取り出す。中には紫色の石がペンダントトップにはめられたネックレス。


「破邪魔法具『ハジャオール』か。」

魔王一柱を倒すには足りないが胆沢の中にあるのは「カケラ」に過ぎない。なんとか封印くらいならできるはずだ。というか現実にそんなものを出されたら誰でも当惑するよな。

「買った覚えももらった覚えもないのになぜか持っていたの。どうしても今夜渡せって言われたから。」


「発動条件は聞いた?」

亜美はうなずく。カケラの暴走による事象は俺一人でも封じられるがカケラそのものを除去破砕するには魔力をためておかねばならないらしい。亜美はもともと異世界の亜美の「入れ物」として用意されていたので、ある程度の魔力があり、それを魔道具に込める術を教わったそうだ。


 「術式行使可能までどれくらいかかる?」

「一日だって。」


「やってくれる?」

「私にメリットがない。敵に捕まったりとか、魔物に追い回されたとか、むちゃくちゃ怖い夢で散々うなされたのに。」

亜美がふくれた。それもそうだな。


「亜美、やってくれたら『言語魔法』と『収納魔法』を使えるようになるはずだ。それで頼まれてくれないか?」

亜美の目の色が変わる。俺の英語力を知っているからだ。それに夢の中で何のことかはわかっているはずだ。そしてどうすればいいのかも。



「じゃあ、俺宿舎戻るわ。」

用件は済んだので立ち去ろうとすると美咲が言った。

「お兄、歌って行かないの?」

いや、門限を過ぎているからな。


「父さんに送ってもらうから、母さんに入ってもらって女同士で楽しんだらいいんじゃね。」

「もしかして音痴?」

俺は音痴ではない。ピアノをやっているせいで音への感覚は鋭い。ただ単純に「良い声」ではないだけだ。

「ちげーわ。音程採点なら90点いくぞ。精密採点だと70点止まりだがな。」

「ビミョー。」

「せやな。」


とりあえず、最後の懸案の鍵は手に入れた。とりあえずは決勝戦。安心したのかどうか、俺は案外すんなりと眠りにつけたのだった。


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