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昨日の自分を超えて行け!

 ジャイロスピンかバックスピンか?


 とりわけジャイロスピンは強靭な体幹と柔軟性が求められる。どのスポーツにとって肝要なものだからこそ俺はそれを追求してきた。体幹が必要なのは地面をしっかりと捉えてその力を上半身に伝えるため、そして柔軟性は腕と上半身を極限まで捻ってまさに弓のようなしなりからボールを放つためである。


 そのためジャイロの時の挙動はバックスピンの時と異なってくる。そして、彼の場合、リリース直前、手首が一塁側を向いている時がジャイロだ。それは俺も同じだ。(左の場合は三塁側)。


 同類投手のよしみというべきか。いや、図らずも同じ道をたどって来たから通じ合うのだろうか。


 スッと沈み込むような外角低め。完全なボール。あぶね。手を出しかけた。ランナーがいる以上、引っ掛けるか詰まらせるかのどちらかだ。


 次は内角にホップするバックスピンか。京極の手首がやや上を向く。前の打席で見送った軌道を思い出せ。十分に引きつけろ。低めのストレートが鎌首をもたげる。すげえホップ。


 だが、叩く。バットが背中に当たる勢いで振り抜いた。木製バットと革製のボールのえもしれぬ乾いた音。ぎらつく太陽が輝く少しだけ秋の近づきを感じさせるブルーの空へ吸い込まれるようにボールはのみこまれていった。


 この感覚こそが打者の醍醐味。ダイヤモンドをガッツポーズしたいのを堪えながら一周する。


 この2点の先制でも京極が崩れることなく後続に安打を許さない。能登間さんと俺は攻略のコツをつかんだのだが、山鹿さんや住居さんはもう少しかかりそう。


 一方、胆沢の速球の方にも相手が慣れてくる。4番の京極に一発を浴びるもソロだったため点差は1点。そして6回。3巡目の先頭打者の伊波さんが2塁打。


 能登間さんがバントで送ると一死三塁で俺。守備はバックホーム体制。ジャイロの低めのストレートが2球外れて2B0S。これは俺を歩かせても構わないという攻め方。京極の球にタイミングが合っていない山鹿さんで併殺を狙うつもりか。結局俺は四球を選択。


 山鹿さんと勝負。しかし、あっさりとセンター方向へ大きな飛球(フライ)

後で聞けば

「お前の球を受けてれば意外でもなんでもないよ。」

とすでにジャイロだと看破していたようだ。


 これで伊波さん余裕の本塁帰還。もちろん、これは俺の二進を援護するために速度をゆるめ、わざとバックホームを誘う「余裕」の走塁だ。この1点は大きい。


 そして住居さんも意地のセンター前、いや正確には二塁後方へのヒット。低めのジャイロをロブショット。「金属バットマスター」を称する住居さんの名人芸だ。全力疾走の俺が捕手(キャッチャー)のブロックを掻い潜ってのホームイン。


 この大きすぎる追加点で胆沢は一気に安定した投球を取り戻す。安打はちょいちょい打たれるものの、その後は山鹿さんの指示通りに丁寧な投球(ピッチング)。すぐに頭にカーッと血が上るくせが治れば剥けるであろう「一皮」が剥けたカンジだ。


 8回に併殺崩れで失った1点を加えられたのものの、完投で4対2で勝利をもぎとった。


 前世の胆沢だったら考えられない成長っぷり。やはり出逢いは人を変えるのかも知れない。⋯⋯根本的で無いところはね。


 勝利者インタビュー。いよいよ次が最後ですね?という問いに監督は

「この陣容(チーム)ではそうですね。」

と答えるに留まった。そりゃそうだよね。そんなことは当事者が一番良くわかっているのだ。メンバーは年と共に常に変化していく。それは当たり前のことだ。


同じ質問をされた伊波さん。

「これが高校生活3年間の集大成と言えばいいんでしょうか?僕たちは一試合ごとにそうしているつもりです、これまでの全ての試合がそうでした。そしてそれは明日の試合もその試合の一つに過ぎません。昨日の自分を少しでも超えること。それが僕たちの目標です。」


うん、完全にマスコミを煽ってますよね。明日の相手は同日に行われた準決勝第二試合で明らかになる。顕真大平安(けんしんだいへいあん)。春夏含めた甲子園最多出場を誇る京都府代表の超名門校である。関西圏の学校だけに明日は球場も盛り上がる違いない。


 これで先輩たちとの最後の試合になる。やべぇ。走馬灯的な回想が脳裏を巡りそうだ。中高一貫校だからこそ尚更かもしれない。だからこそ最高の形で送り出して上げたいのだ。


 


 

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