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「わんぱくスラッガー」というパワーワード。

 「死球恐怖症」にならなかった俺はチームでレギュラーポジションを確保する。もちろん亜美も一緒だ。5年生が何人もメジャーチームでレギュラーを獲るのはなかなか珍しいのだ。


 俺と亜美が獲った「優秀選手賞」がもらえなかったことがよほどの起爆剤になったのか、胆沢は恵まれた体格にあぐらをかかずに練習に熱心になる。はっきり言って前世の時より球が速いかもしれない。


 ただ俺の打撃(バッティング)はそれにまして進化している。リトルリーグは変化球禁止の上、たとえバッテリー間の距離が短かったとしても「大人の眼」を持った俺にとっては打ちごろであった。公式戦で本塁打(ホームラン)を量産し、5年生の夏の日本選手権大会では3位、春の選抜大会では準優勝を飾った。


 そのころ俺につけられた二つ名(あだな)は「ミニゴジラ」であった。プロ野球東京ギガンテスの4番バッター松居秀輝(まついひでき)氏の二つ名である「ゴジラ」にあやかったものだ。


それを付けたのが女子アナのお姉さんだった。

 俺は「わんぱくリーガー」というテレビ番組の取材を受けたのだ。テレビ番組と言っても10分足らずの短尺(ミニ番組)で土曜日の早朝5時半に放映するような番組だ。全国大会で2連続本塁打王の俺はリトルリーグの世界では「左の大砲」として有名だったのだ。


 その当時は小学生相手のハンデとして俺は本来の利き腕ではない左の打席にだけに立っていたのだ。インタビューでお姉さんに憧れの野球選手を尋ねられたとき、俺は無難に左の強打者の松居選手の名をあげておいたのだ。ただお姉さんの「間」が気になってしまった。


 俺は収録後お姉さんに挨拶する。

「そう言えば東京スイフト(神宮球場を本拠地にするセ・リーグ球団)と提携しているテレビ局の方でしたよね、憧れの選手は間中選手(まなかさん)因幡選手(いなばさん)にしておけばよかったですね、すみませんでした」

と伝えると大爆笑されてしまったのだ。しかも番組でもそれをコメントとして使われてしまったのだ。オフレコだったのに。

 

「うちのママも爆笑してたよ。『お気遣い小学生』って言われてたじゃん。」

勘弁してくれよ亜美。俺だって『この子は将来間違いなく名監督になれそうですね。』なんて言われて恥ずかしかったんだから。もっと恥ずかしかったのは両親が番組を録ったビデオテープを親戚中に配って歩いたことだ。


 しかも亜美もちゃっかりインタビューに登場し、「鉄壁の二遊間」の相方として登場して俺の存在感を完全に食っていたのだ。そらテレビ局からすれば女の子の方がいいからね。亜美パパが撮ったビデオの映像も流されたのだ。二遊間の鋭い当たりを俺が飛びついて止め、グラブトスしたボールを亜美が矢のような送球して打者走者(バッターランナー)を一塁で刺すというおよそ小学生らしからぬファインプレーの映像が紹介されたのだ。そのあと何度かその局の「ホームビデオ」系のバラエティでも使われていた。


 おかげで学校では「夫婦でテレビ出演」とか囃し立てられる始末だ。あーハイハイ、小学生ってこういうノリ好きだよね。男子にからかわれ過ぎて若干亜美が涙目になってきたので俺が割って入った。こいつらもテレビ出演がよほど羨ましかったんだろう。テレビにまだ子供たちが憧れている時代だったのだ。


 「もうこれくらいでいいだろ?俺の亜美(よめ)を馬鹿にするなら俺も黙ってねーぞ。亜美はこう見えても日本の小学生じゃナンバー1の遊撃手(ショート)だぞ。お前らがバカにできるならそれなりの技を持ってんのかよ。」

俺の啖呵にクラスの女子たちが乗る。


「そうだよ。亜美より野球が下手っぴなクセに。男の嫉妬なんてチョーみっともない。」

 補欠だった前世と違い野球が上手くて「テレビに出たことがある」俺はおのずとクラスカースト最上位だったのだ。


 ただ、俺がテレビの取材を受けたのには理由があった。今の中1が卒団したら胆沢の父親が監督に就任することになっていたからだ。そして胆沢も容赦なく「癇癪(スキル)」を発動させてくるだろう。それに備える必要があったのだ。


 間違いなく何か仕掛けてくるはずだから。


 


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