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県予選突破!

 住居さんは5番打者。四番の山鹿さんが割と鈍足なので気を使う打順ではある。ようは「併殺」の危険度が高いのだ。山鹿さんはそれを狙われての敬遠も多い。だが、舐めてはいけない打者なのだ。


 何しろ引っ掛けさせて内野ゴロを打たせようと狙ったコースに来ることが分かっているから球種を絞れるつよみがある。だからこそ無理に引っ張らずにラインドライブぎみの強い打球が打てる。多少芯を外してもスイートスポットの広い金属バットならパワーで外野に持っていく。ただしプロに行ったら打撃でしばらく苦労しそうだ、と自嘲気味に言っていた。


「俺は金属バットに関しては達人クラスだからな。」

が口癖。だからプロのドラフトにかからなければ社会人か大学進学するという。その間に木製バットの感覚に慣れたいというのだ。


 住居さんは外角低めをきっちりと踏み込んで右に流す。打球はライト線沿いを飛んでフェアゾーンに着地するとファールゾーンへと転がっていく。俺は余裕の帰還。たとえ鈍足な山鹿さんでも十分余裕を持って⋯⋯帰れんのかい!中継したセカンドは三塁へ送球。山鹿さんなんとかセーフ。当の住居さんは


 「山鹿(タク)じゃなきゃ3塁打だったのにぃ。」

と苦笑い。初めて口元が緩んだ。


 その後も順調に得点を重ねて12対2で圧勝。3年連続三度目の夏の甲子園の切符を手に入れた。


伊波さんはインタビューで

「昨年の忘れ物を取りに行きます。ライバルたちも強くなっているはずですが、僕たちもそれなりに成長しているつもりです。」

と堂々の甲子園優勝宣言。


 監督はインタビューでチームの「完成度」を尋ねられる。

「チームとしては一定のレベルに達したのは間違いないです。ただ、誰も『完成された』選手はおりません。彼らは夏が終わっても一歩一歩前進を続けていくだけのことです。」


「『栄光への架け橋』を渡れますか?」

つまり、甲子園での優勝を狙うか、という記者の問いに

「いや、栄光への『階段(きざはし)』だと思います。渡るのではなく登っていくんですよ。彼らにとって甲子園はただの『踊り場』に過ぎません。そこで得た糧を手にさらなる高みを目指して登り始めるだけのことです。」

と答えた。ケントは青学を「甲子園常連校」にしたいのではなく、「プロ選手の養成校」にしたいのだ。それを踏まえた監督の発言である。


 一応、優勝決定前から準備は始まっているが決まった瞬間から学校は大忙しだ。保護者会も忙しそうで、専業主婦の母は色々と掛け持ちさせられているようで申し訳ない。それこそ横浜から母方の祖母が主婦代理として応援に来てくれている。


 ばあちゃんありがとう。色紙を山ほど持って来なければもっとありがたいのだが。「ウチの孫がスターになってからでは遅い」ということを周りに喧伝してくれているらしい。ばあちゃん、俺も既にそれなりには知られてるつもりなんだけど⋯⋯。


 各種マスメディアの取材や県知事や市長への表敬訪問など事前行事も多い。そして、伊波さんが野球部長を務める顧問教師と共に組み合わせ抽選会へと向かった。


 この年からいわゆる「東西対決」が廃止され「フリー対決」になったのだという。野球の強さは西高東低と言われる。だから東西対決にこだわると東日本勢が一気に壊滅してしまうのだ。いくつか通説はあるが、西日本の方が日の入りの時間が遅くなるので長時間練習できるため、あるいは気候が温暖なのでトレーニングに適している、などの説もある。


 ただ沖縄出身の伊波さんに言わせれば西日本の方が田舎で遊ぶところが少ないからだそうだ。いや、埼玉北部(ここ)も十二分に田舎でしょ。


 組み合わせの結果はなんと2回戦からの登場ということになった。

「すまん。クジ運が悪かったわ。」

伊波さんは謝っていたが、いいんですよそれで。アタリクジです。それよりも選手宣誓が当たらなかったことがご不満だったらしい。春に当たっただけでも奇跡的でしょうが。


 亜美からは「優勝おめでとう」の葉書が来た。亜美も女子の方の選手権連覇がかかっているので大忙しで大変らしい。どうせなら水着の写真くらいつけてくれよ⋯⋯とは口が裂けても言えません。


 俺たちは甲子園練習の日に合わせて新幹線で一路、甲子園に向かう。宿は春と同じ伊丹市のビジネスホテルだ。


 「俺、古い旅館とかが結構、憧れだったんですけどね。」

隣の席の小囃子(ミッツ)がぼやく。あーわかるわかる。「ナ●ン」とか「タ●チ」とかのあれな⋯⋯てそれ昭和!


 でも今時の子は雑魚寝とか抵抗がないのだろうか?だいたいオマエラ全員ベッドだろうに?

 

「だからですよ。布団って新鮮じゃないですか?」

あー世代格差ジェネレーションギャップ感じるなぁ。実年齢1歳差だけど中の人が昭和なんで。

 

「でも大浴場が無いから、湯船にガッツリ浸かりたいヤツは銭湯だからな。」

「えー!」

コイツら風呂好きなのか。いや、風呂にこだわりの無い俺こそが日本では少数派なのか?

「健さん、行きつけの銭湯に連れて行ってくれるんスよね?」


「お⋯⋯おう。」

俺は自分が「シャワーだけでも十分派」で一度も銭湯に行っていないとは言えず、つい、安請け合いしてしまった。




 


 

 

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