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良いチームの証

「良いチームだな。」

山鹿さんが対戦相手の聖耀学園を褒めた。短いグラウンド練習で声もよく出ているし、動きも敏捷だ。準々決勝にふさわしい相手だと言えるだろう。ただ目線は上からなんですが。


 先発は胆沢。ストレートとスライダーとチェンジアップを混ぜながら相手に付け入る隙を与えない。もちろん、これは山鹿さんのリードによるものだ。


 山鹿さんの配球は相手ではなく投手のコンディションに合わせて変わる。プロ野球のようにデータが揃っていれば相手に合わせるんだろうが、ほぼ初見の相手に合わせるのは難しい。俺は捕手だけは無理だ。いつもそう思う。


 一度「捕手にも勝ち星が付くと良いですよね。」と山鹿さんに言ったことがある。その時は嬉しかったらしく「それな。」と言って俺の頭を撫でた。


 「俺も健の時は楽で良い。構えたところにきっちり来て逆球がほぼないからな。フレーミングさえ要らんレベルだ。胆沢ももう少しコントロールが良ければな。」

「まああいつは荒れ球(それ)が持ち味ですから。」


  そう、それなんだよなぁ。

 構えたところと反対側、つまり打者の狙い通りのコースに球がいったのか痛烈な打球が三遊間を抜ける。


 地方予選では点を取るのが難しくないのでまだ良いのだが、甲子園ではそうそう点を取らせてもらえない好投手も多い。だからこそ慎重でなければならないが、一方で胆沢の持ち味を殺さないのも大事になってくる。


 7回表、これで4回目の打席。7対1とセーフティリード。もう一点取ればコールド勝ち。能登間さんを二塁に置いての打席。⋯⋯打っちゃお。


 予選レベルなら狙って本塁打が打てるようになってきたのだ。6回でエースが降板して二番手投手が出てきたため、魔法の試験運用にも問題がない。


 ゴロを狙った初球のカーブを打ち抜く。本塁打。ここでコールド勝ちが決まる。9対1で準決勝へ。


 準決勝は亜美の通う彩栄学院高。去年の秋の県大会でも当たったっけ。久しぶりに「香織(オレ)」当てのメールが。甲子園の翌日以来会っていなかったため、心が踊ってしまう。


 「明日、試合は観に行くけど多分会うのは無理かなぁ。それとも出待ちしよか?」

出待ちて(笑)。寮からチームメイトと電車と徒歩で球場に行くらしい。

「あのピンクのユニで電車に乗るのは少し抵抗がありますな。」


 でしょうな。だいたいこちらはバス移動だから会うのは多分無理ですがな。

「結論、甲子園と女子選手権終わったらまた会おうね。男子部のみんなには『当たって砕けろ』って応援してるから遠慮なくどうぞ。」


 容赦ねー。だいたいそれは応援と言えるのか。まぁ、普段から亜美は男子部と合同練習とかやっているからこその気安さなんだろう。少し明日の対戦相手に闘志が沸いてきたな。


 でも、俺は考えてしまう。俺がアメリカを、メジャーへの挑戦を選択したら二人の関係はどうなってしまうんだろう。もし交際を受け止めてもらえたところで、ずっと離れ離れの状態が続くことになるよな。まさか俺に黙ってついて来い、なんてのは俺の前世の時代でさえ末期だった。彼女にだって才能も夢もある。


 ケントに相談するか⋯⋯。


 ついに準決勝第一試合。Aシード対Bシードという鉄板の対決。昨日の準々決勝から夏休みに入ったこともあり、チアや吹部にも動員がかかった。


 ベンチ裏のロッカールームに吹部とチア部の顧問が監督に挨拶に来ていた。もう観客入場が始まっているのだろう。今日はこちらが後攻。彩栄のグラウンド練習が始まったみたいだ。スタンドでは応援の打ち合わせとかやってるんだろうな。


 妹の美咲も吹部とチア部の給水係としてスタンドに来ているはずだ。

「お兄の妹ってみんなに知られてるんだから、私に恥をかかせないでよね。」

って言ってたな。最近また反抗期なのかツンが酷くなっている。この先デレるかどうかは知らんけどね。いやいや、妹がデレてどうなんねん。


 試合前のミーティング。山鹿さんが面白いことを言った。

「良いチームとは何か?俺は信頼できるかどうかだと思う。そして信頼とは何か?それは許し合えることだと思う。


 俺は個人的にみんなの練習や努力を見て来た。だからこそ最善を尽くした上での失敗は仕方がないと思う。だから失敗を恐れずに挑戦しよう。たとえ失敗してもみんなで取り戻せばいい。たとえ100の失敗だったとしても、20人で対処すれば一人で5ずつ負えばいいだけなんだ。だから今日は思い切って行こう。」


「良いチーム」か。確かに良いチームはたくさんある。問題は「結果が残せる」良いチームかどうかだ。学生時代は過程が評価される。しかし、社会で評価されるのは結果だけだ。


 理想論を言いながら結果も求めてくる。この先輩方が正直言って一番厄介なんですけど!俺は凪沢や胆沢と目を合わせて確認してしまった。そしてそれでもなお、俺たちはこの先輩たちと一緒に野球がしたいのだ。


 それこそが良いチームの証。



 


 


 

 

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