野球漬けの日々。
次話から夏の甲子園編ですよ。
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アカデミーは俺のいない間にリーグ優勝を決めていた。
これから州のチャンピオンシップに参加することになる。ただ、これは勝ったらうれしいな、というレベルの大会であり、日本のように試合の結果が何かのキャリアにつながるわけではない。
問題は試合の「結果」よりその中で行われる「過程」なのだ。アメリカの普通の高校生であれば学年末になる6月から始まるサマーリーグに選抜される必要がある。なにしろ高校の部活もそこで終わるから。
そこで活躍すればより上位のカテゴリーのチームに呼ばれ、「トラベルボール」と呼ばれる飛行機移動を伴うような遠征があるチームに呼ばれ、そこでメジャーのスカウトや大学のリクルーターの目にとまればいわゆる「ショーケース」と呼ばれるトライアウトに推薦、招待されるという仕組みだ。
その最高峰が8月上旬にカリフォルニアで行われる「エリアコードゲーム」なのである。俺の場合は甲子園とまるかぶりなので推薦されても出られないのは残念だが。
「予選に落ちたら出られるさ。」
コーチのサムが縁起でもないことを言う。
アカデミーの場合はすでに超高校級の連中がごろごろしているため、トップチームに入りすれば「トラベルボール」に参加できるのだ。いわゆる全米各地で開催される「招待トーナメント」に呼ばれるのである。
アメリカではこんなのに参加すれば夏だけで60万円ほどはすっとぶらしい。まあアカデミーにいても同じくらいはすっ飛ぶんだけどね。俺がプロのドラフトにひっかからねばならないわけだ。
野球漬けといっても授業の取り方は青学と同じなので楽といえば楽。正確に言えば青学がアメリカ式に寄せているわけなんだが。ちなみに体育の授業は無い。
まあ、朝練も午後の練習もやっているわけだから、それが体育の授業である。ちなみに必修科目や選択科目をとっても、先生たちの関係で隙間時間が生じる。その空いた時間を基礎トレーニングや休養などにあてるのだ。
ちなみに芸術も必修に入っているので、中学で始めたピアノもまだ続けている。相変わらず楽譜がないと弾けないけどね。
「健、女の子にモテそうじゃん。」
よくチームメイトに冷やかされる。
「ジャズが弾けないから無理だな。俺、楽譜通りにしか弾けないというか譜面見ないと弾けないし。」
モテたいなら自分で編曲して弾くという芸当ができないとダメでしょうね。
男女共学なので女生徒もそこそこ多い。特にテニスやゴルフの女子プレーヤーが多いのだ。昼食やら授業で一緒になることもある。かわいい子というかアジア人から見るとくっきりした顔立ちだから大人っぽく見える。
俺も休日の遊びで、アカデミー内のゴルフ場でラウンドした時にペアで回ったこともある。
体育祭も文化祭といった行事がないのが少々寂しくはあるが、あるのはプロムくらいだ。プロムというのは卒業生に向けたフォーマルなダンスパーティで男女ペアでないと参加できないので、彼女をここで作るつもりのない俺には無縁の行事だ。男子生徒の方が圧倒的に多いから女子もどんなに「個性的な」顔立ちでもあぶれることはまずない。
ところが、ロシア系美少女のテニスのシャーロットが俺に声をかけてきたんだ。
「健、あなたはプロムでお相手を頼まれてたりなんかする?」
なに?これはまさか⋯⋯。
「いや、まだ予定は空いているよ。」
O塚明夫か、って言うくらい「ええ声」で言ってみる。(全然及ばないけど)⋯⋯ゴクリ。
「よかった、パーティでピアノ弾いてくれない?ピアニスト要員が足りなくて困ってたの!」
ですよね⋯⋯。
「はい、喜んで。ワルツで良いんですよね?」
⋯⋯まあ、人生こんなもんです。良いですよ。俺はここに野球をしに来ているんですから。もう一度大切なことなんで繰り返します。俺はここに野球をしに来ているんですから。
チクショー。