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大阪、春の陣。

 大阪桃林(とうりん)高校は激戦区の大阪府にあって常に甲子園を目指せる強豪校だ。それこそ全国から優秀な選手たちが集まってくる。


 試合は2日後の3/31。第二試合だ。準々決勝なので第二試合でも午後からである。

「よし、8時まで寝てやる。」

早起きしたの「たったの」二日だけだったでしょうが。と言うか寝るのが遅いんですよ。


 桃林のエースの坂田さんはリトルシニアでも対戦経験があるので知らないわけではないが、2年も前なのだからお互いに成長しているはずだ。現在は球速が150km/hを超える本格派の左腕で今年の秋のドラフトには必ず上位指名になると目されている。


 求道の諸星さんのような組み立てられたピッチングではなく速球でゴリゴリと力で押してくるタイプだ。あ、もちろんコースへの配球はあるけど決め球はストレート、ってタイプのこと。


 坂田さん自身のコメントはマスコミ向けの「謙虚バージョン」しか見ていないが、その「謙虚さ」の中さは勝利への意欲がありありと見えていた。


 今回は後攻である。先発は満を持しての中里さん。高校の東西を代表するエース同士の対決。スポーツ紙でも一面でこそ無いが大きく取り上げられていた。


 由香さんのネット新聞であるジャパン・スポーツ・ニュース・フラッシュだけが俺中心の記事になっている。というか紙媒体でない分色々書いてある。紙面が限定されない電子版の強みなんだろうか。


 休養たっぷりの中里さんはいつもの躍動感あふれるフォームで初回を3人で片付ける。


 一方の坂田さんの立ち上がり。150km/hのど真ん中で伊波さんを三振に打ちとると、能登間さんには決め球がスクリューボール。珍しくポップフライに打ち取られる。右打席に俺が入る。


 見せ球の150km/hのストレート。前2試合の投手とは明らかに違う速さ。いや、球の終速が速い。しかもコースギリギリにしっかりと決めてくる。この速度でこのコースか?チェンジアップが無くても打ちづらい。


 最後、決め球のスクリューボール。チェンジアップのかわりがこれ。あまりの軌道の美しさに見惚れてしまった。ボールかと思えば見送りの三振。リリースポイントから弧を描き曲がって行く感じがシュートとは異なっている。


 2回先頭打者の山鹿さんも三振に終わる。外に逃げるスライダーだ。手元できゅっと曲がる感じ。右と左に鋭く曲がる変化球と速球。これは打ちにくい。


「ストレート一本に狙いを絞るしかないな。」

山鹿さんの言葉に伊波さんは

「ボックスの前寄りに立ってみるか。変わり(ばな)なら打てんじゃね。」


 2試合で30得点したチームが一転して0行進。やはり春は投手力の良いチームが有利といわれているだけはある。


 中里さん2回戦で2本塁打を放った桃林の主砲永田さんをきっちり抑えている。

5回まで互いにヒット2本づつの無得点。俺も6回に回ってきた3打席、能登間さんを一塁に置いていたため、魔法をつかう。


 暴投?坂田さんの投げた球は上へと上がり山なりに落ちてくる。器用にホームベース上を通ってキャッチャーミットへ。ストライクのコール。うわ、こんなこともやるんだ。ストライクゾーンを通ればストライクだが、実戦でこんな球をまじめに投げる人がいるのか?


 それよりも俺の魔法はボールを「敵」に見立てた術式だからこんな敵意のないボールには発動しない。危ない、これはある意味弱点だな。


 俺の驚いた顔が思い通りのリアクションで面白かったのか、坂田さんはにやりとする。くそ、カウントを一つ稼がれた。ちょっと腹が立つ。しかし、それが力みにつながったのか、ライトフライに終わる。芯を外してしまったのだ。


 9回、ついに試合が動く。これまで抑えてきた中里さんだが、四球とバントで1死二塁からヒットを打たれ1失点。後続は絶ったものの残るは9回裏のみ。延長戦になれば投手力に勝る青学が有利なのでなんとか抑えにくるはずだ。


 先頭の一番伊波さんが決め球のスクリューをたたいて一塁に出ると能登間さんが送る。俺は左打席にはいる。今日はこれまで右打席で入っていたから、相手捕手が怪訝そうな顔をした。そう、左対左なら打者よりも投手が有利だからだ。


 俺としては前打席の意趣返し。「舐めた」マネには「舐めた」マネで行く。左打者は俺と山鹿さんだけ。しかも山鹿さんは今日は無安打。最初は俺を敬遠しようとしていたバッテリーだったが勝負に切り替えたようだ。山鹿さんで2アウトでもその後ろには住居さんと中里さんという気の抜けない右打者が控えているからだ。それなら左の俺の方がくみしやすい。


「なるほど、健のやつ、考えたな。」

ネクストサークルで山鹿さんがつぶやいた。




  

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