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幼児期の魔法の鍛錬といえば魔法を使いきるというアレ

 俺は平日はママに連れられて電車を見に行くのが好きだった。男児はすべからく「工事車両派」と「電車派」にわかれるのだが、俺は走行する電車を見て動体視力を養うのが目的だったのだ。


 週末はパパに連れられて野球場へ行く生活だった。父は引退した後も元居たチームでコーチの補助とマネージャーのようなことをボランティアで続けていたのだ。母にとっても週末のうち1日だけでも俺から手を離せるのはよかったのだろう。


 公園では虫に麻痺や毒をかけたり、スズメに加速をかけたり、近所の怖い犬に低速化(スロー)をかけたり。遊具に魔法を付与(エンチャント)したり。一度三輪車に加速(ヘイスト)をかけて危なかったこともある。びっくりして身体硬化を重ねがけしてなんとか事なきを得た。


 4歳からは保育園に通い出す。最初から愚図らずわがままを言わずに通う俺は割と評判の良い子であった。ただし中身が大人なので、さすがに周囲の園児のノリについて行けず一人で園庭で運動したり教室でストレッチをしていた。幼児の声聞いてると頭が痛くなるしな。


 めんどくさいのが「お昼寝」の時間だった。眠れずに俺にちょっかいをかけてくるヤツ。イラっとするので睡眠魔法(スリープ)をかけてやった。先生たちも含めて全員にかけることによって俺は自分の時間を確保していた。


 年長になったあたりから親にねだってスイミングスクールに通わせてもらった。関節に負荷をかけずに体幹の筋力と心肺能力を鍛えたかったのだ。まあさすがにそんな理由を言うはずもなく、俺は自分の身体能力育成計画を着々と進めていく。


 そして「加速(ヘイスト)」を感覚器官にかける訓練を始めた。例えば眼球や脳内の「視床」そして「視覚野」、という感覚に加速をかけ視覚情報の処理を格段に上げていくのだ。つまりそれは動体視力の飛躍的な向上という効果が得られた。脳の情報処理能力を加速したのである。幼児期にかけつづければそれが標準として発達していく。これがのちに「思考加速」という一つのスキルになるのだ。


 昔の天才打者は打撃(バッティング)の極意として「ボールが止まって見える」とか「ボールが『スッ』と来たら『カーン』と打つ」とか正直言って意味不明な語録を残している。しかしこれは凡人だからこそわからないのであって、その感覚を魔法で再現してやればいいのだ。



 また前世は右利きだったので左も使える訓練も始めていた。スポーツで左が使えるのはアドバンテージになるし、左右を均等に鍛えた方が故障のリスクは少ないはずだ。



 保育士の先生たちから見れば他の園児と遊ぼうとしない俺を一風変わった子だと思ったはずだ。遊ばないのではない。園児たちの動きの高速予測(シュミレーション)を繰り返していたのだ。


 そして同じ保育園に例の胆沢がいたことに気づいたのだ。あの身体の中に「魔王の欠片(かけら)」が入っているわけだ。当初そう思って探りを入れたものの、彼の振る舞いは普通の幼児そのもの。やはり俺を()めたあの「人格」ではないようだ。ただ人間性のいやらしさは変わらないだろうから関わりはなるべく避けよう。


 胆沢は身体がすでに大柄だったので気に入った女の子をいじめてしまうタイプの男児だった。彼が癇癪(かんしゃく)を起こすたびに物が落ちたり、誰かが派手に転んだりする。俺も何度か「事件」に襲われたことがある。俺は胆沢を観察し、その魔王の能力を見極めることにした。


 どうも彼の持つ魔王のスキルは彼の「気に入らない」という感情に反応してなんらかの魔法が発動するようだった。これはなんとか早いうちに対策を打つ必要があった。俺は自分に「魔法防御」をかけるのを怠らないようにする。


 そして平成9年4月、俺は小学生になる。地元の公立小学校、桜田小学校である。同時にリトルリーグにも参加する。これは前世と同じ流れであった。ただ違うのは俺の中の人。


 なにしろ小学校の授業がひたすらつまらない。なにしろ通算すると27歳ですから。仕方ないので図書館(学校の図書室ではない)で借りたりパパの書棚から持って来たトレーニングや野球理論関連の書籍を読みふけり、魔法でそれを再現する実験を続けていた。


 この当時はまだ甲子園出場からのプロ野球入りを目指していたのだ。


 

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